「びゅうプラザ終了」で困る人はいない “非実在高齢者”という幻想:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
JR東日本の「びゅうプラザ終了」報道で「高齢者が困る」という声が上がっている。しかし、そのほとんどが当事者による発言ではない。“非実在高齢者”像を作り上げているだけではないか。実際には、旅行商品や乗車券を手にする手段もサポートもたくさんある。
「実在する人」に配慮しよう
乗車券はかつて、全て出札窓口で手売りだった。それが自動券売機に取って代わられたときも、たぶん「高齢者が困る」と騒ぐ人はいただろう。しかしいま、自動券売機を扱えない人はいない。ICカード乗車券が普及して、むしろ若い人のほうが自動券売機を使えないかもしれないけれど、若い人は教われば使える。一方、ICカード乗車券を使う高齢者は多い。
映画もオンラインチケット予約が増えた。シネマコンプレックスには窓口がなく、自動発券機がズラリと並ぶ。コンシェルジュが1人いてサポートする程度だ。それで映画館から高齢者が消えたという話は聞かない。むしろシニア優待日はにぎわっている。
新しい技術が登場し、古い技術と交代するとき「それで困る人がいる」と声を上げる人がいる。しかし、その声を真に受ける前に、本当に困る人がいるか検証すべきだ。たいていは余計なお世話で、実際に困る人はいない。「非実在青少年」「非存在高齢者」だけではない。「非実在労働者」「非実在主婦」「非実在教師」「非実在学生」「非実在性的マイノリティー」……どれも「大きなお世話な人」の空想が作り出した幻影だ。多勢を笠に着て声高に主張する「みんながこう言っている」の「みんな」と同じだ。みんなとは誰だ。そこに私もいるのか。勘弁してほしい。
ただし「私は困っている」という声が上がったら、それは真摯に対応しなくてはいけない。私は1度、「困った中年」になったことがある。暇つぶしにパチンコ屋に入ったら遊び方が分からなかった。若い頃に見かけた「100円玉を入れると玉が出てくる玉貸し機」がない。プリペイドカード方式になった時までは理解できたけれども、さらに進化して、玉貸し機そのものが見当たらない。店員を呼び止めようにも忙しそうだし、遊ぶ意欲が失せて店を出た。
あとで調べたら、各パチンコ台の横に紙幣を入れる場所があったらしい。パチンコ業界には「非実在玉貸し機世代」を唱える人がいなかったようだ。それから20年以上、私はパチンコ屋に入っていない。
JR各社のシニア向け会員サービス。「ジパング倶楽部」はJRグループを横断する会員サービス。JR東日本は付加価値サービスとして「大人の休日倶楽部ジパング」、ミドル層向けには「大人の休日倶楽部ミドル」を設定。JR北海道はジパング倶楽部サービスをJR東に移管し「大人の休日倶楽部ジパング」「大人の休日倶楽部ミドル」に参加。JR四国「四国エンジョイクラブ」は男性満60歳以上、女性満55歳以上で入会でき、JR四国と土佐くろしお鉄道が割引に。JR西日本の「おとなび」は50歳以上が対象で、山陽新幹線「のぞみ」や在来線特急の割引サービスなどがある
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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