「びゅうプラザ終了」で困る人はいない “非実在高齢者”という幻想:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
JR東日本の「びゅうプラザ終了」報道で「高齢者が困る」という声が上がっている。しかし、そのほとんどが当事者による発言ではない。“非実在高齢者”像を作り上げているだけではないか。実際には、旅行商品や乗車券を手にする手段もサポートもたくさんある。
「困る人はいない」といえる理由
「びゅうプラザ」が全てなくなると、窓口を利用していた人たちはどうなるか。インターネット予約サイト「えきねっと」を利用するか、「大人の休日倶楽部」会員となって電話で予約センターへ申し込む。あるいは他の旅行会社の窓口へ行く。
そして新たな選択肢が生まれる。びゅうプラザに変わって20年4月から設置される「顧客接点型拠点」だ。報道では現行の「びゅうプラザ」のうち約半数が「顧客接点型拠点」となる。「顧客接点型拠点」は旅行商品の販売を行わない。しかし、旅がしたい人の相談窓口になる。特に「大人の休日倶楽部」のサポート窓口になる。これが重要だ。
「顧客接点型拠点」は大人の休日倶楽部の非会員も利用できるけれども、大人の休日倶楽部の入会を勧められるだろうし、旅行好きならば会員になったほうがいい。それが嫌なら、他の旅行会社を使えば良い。JR東日本の旅行会社部門は顧客を失うけれども、列車の旅を選択していただければ、JR東日本としては顧客を失ったことにはならない。
JR東日本はインターネット予約サービスに力を入れる。会員制で旅行商品を電話で予約できるサービスもある。きっぷを買うだけならみどりの窓口がある。みどりの窓口も減っているけれども、代わりに指定券販売機を置き、駅員がサポートする。これだけの手段があれば、「窓口を利用できなくて困るお年寄り」「インターネットに不慣れで困る中高年」もいないだろう。
「非実在高齢者」に惑わされるな
そもそも、「窓口を利用できなくて困るお年寄り」「インターネットに不慣れな中高年」は存在するか。「体力が落ちて窓口まで行けなくて困るお年寄り」なら分かる。そのためにインターネットや電話の窓口がある。「インターネットに不慣れな中高年」とは誰のことか。パソコン通信は1980年代に始まり、90年にはインターネットサービスが始まった。90年に30代だった人々がもうすぐ還暦だ。50代、60代の人々は、インターネットに不慣れかもしれないが、使えないはずがない。
70代以上の人々はインターネットを使えないかもしれない。しかし、スマートフォンを扱えるなら、割引などのメリットを感じて使いこなすかもしれない。パンフレットの電話番号で旅行商品を申し込む方法もある。「びゅうプラザ」よりもっと店舗数が多い旅行会社の窓口もある。こうした行動を起こせない方々は、そもそも旅行意欲が旺盛ではないから、旅行業界のお客ではない。
「時代の変化に追い付けずに困る年寄り」は本当に存在するか。高齢者を侮るなかれ。人はやりたいことがあれば手段を見つけて行動する。高齢者本人が「私は困る」というなら、それは解決すべきだろう。しかし、当事者でもないのに「年寄りが困る」は疑問だ。その年寄りは誰か。困った高齢者を想像しているだけの「非実在高齢者」ではないか。
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