「テレビ局が株主だから大丈夫」宮迫・亮の謝罪会見に見る、吉本興業の深刻な勘違い:専門家のイロメガネ(6/6 ページ)
宮迫・亮の謝罪会見で注目されたのが、「在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫」といわれた、という発言だ。これは吉本が「テレビ業界の子会社」のような位置づけに近いことを意味する。事務所を辞めるべきは芸人なのか、それとも事務所幹部なのか? そして甘い対応をすれば、テレビ局にも責任が発生する可能性もあるのではないか?
吉本で行われるべき経営改革
テレビ朝日の番組「アメトーーク」のスポンサーは、事件が報じられると事実関係が未確定の状況でもすぐに降りたが、これは結局正しい判断だったことになる。真っ当な企業のコンプライアンスに関する判断は、それくらい厳しく、そして素早い。
したがって可能性は高いとはいないが、もっとも苛烈(かれつ)な経営改革がなされるとしたら以下のようなシナリオもありうる。
テレビ各局が臨時株主総会の開催を要求し、全員クビにしてテレビ局から代わりの役員を派遣する。実質的に「テレビ業界の子会社」となった吉本は、契約書の管理から始まって過去の闇営業の税金支払いなど法的な問題を一掃させる。
何年かかけて経営改革を徹底的に行って吉本を復活させ、その間に吉本芸人はテレビ局と個人で出演契約(つまり公然の闇営業)を結んで乗り切る……。
妄想だと笑う人もいるかもしれない。しかし、ここまでやらないと、人気芸人がこぞって離反することで吉本が崩壊する可能性がある。そして、テレビ局側も自社の株主や総務省からの突き上げを受けて経営責任まで発展する……そんな状況になってもなんらおかしくない。
会見を行った二人の過去の行動はとても認められるものではなく、知らなかったとはいえ詐欺集団の犯罪を加速させた可能性すらある。事務所との信頼関係が完全に壊れた理由に、お金を受け取っていないと虚偽の説明をしたことも影響していることは間違いない。自己責任といえばそれまでだ。
しかしビートたけし氏も松本人志氏もそろって同じようなコメントをしたように、お笑い芸人にこんな会見をさせるべきではない。こんなのを見たら誰も笑えなくなってしまう、ということになるだろう。
前回の記事では最後に「(コンプライアンスの)研修を受けるべきは芸人なのか、それとも事務所幹部なのか」と書いた。
今回の記事では「事務所を辞めるべきは芸人なのか、それとも事務所幹部なのか? そして甘い対応をすれば、テレビ局にも責任が発生する可能性もあるのではないか?」と指摘しておきたい。
※執筆時点では吉本側の会見はまだ行われておらず吉本の言い分はすべてウェブサイトやメディアを通じたものである。本分で書いた通り事務所側の言い分も当然耳を傾けるべきである。
※筆者は吉本および国内すべてのテレビ局各社との利害関係ついて、融資、投資、その他継続的な取引関係はないことを明記しておく(単発の取引として、過去にTBSとフジテレビのニュース番組にコメントおよび動画で、それぞれ1〜2回程度出演したのみ)。
執筆者 中嶋よしふみ
保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。
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