テレビ局が吉本興業を出入り禁止にすべき理由:専門家のイロメガネ(8/8 ページ)
吉本興業の芸人による闇営業。この事件で最も重要なことは、事務所のあずかり知らない所で所属芸人が詐欺集団の会合に参加したことであり、芸人をマネジメントすべき吉本興業がそれを防げなかったことだ。本来研修を受けるべきは芸人ではなく、吉本興業の経営陣ではないのか。
コンプライアンスの研修を受けるべきは誰か?
事務所を通さずに直接お金を受け取る闇営業は、各種報道を見る限り決して珍しくはないようだ。闇営業と、営業先が詐欺集団や暴力団だったことは別問題と考える人は多いようだが、実際は別問題どころか密接に関わっている。
テレビ局は、事務所の預かり知らない場所で勝手に仕事をしているタレントを安心して出演させられるのか? ということだ。友人や親戚の結婚式などで芸を披露する際にお金なんて取れないといった発言も目にしたが、お金を受け取るかどうかと事務所を間に挟むかどうかは全く別の問題だ。
事務所の立場から見て、友人の結婚式と芸人から説明を受けても、それが本当かうそかは確認のしようがない。もしかしたらうそをついていて、しかもそれが暴力団員の結婚式で芸人も知らなかった、ということもあり得る。つまり相手が誰であろうと、闇営業を許可したり黙認したりしている時点で、反社組織との取引が事務所の見えない場所で行われる可能性がある。
テレビ出演で有名になったタレントが暴力団の会合で営業をしてお金を受け取っていたら、テレビ局は間接的な加害者となり、少なくとも道義的な責任は免れない。そしてずさんなマネジメントを行っている事務所と取引を続けるのであれば、道義的責任では済まない可能性もある。
闇営業については当事者からも多数の声があがっている。先輩に頼まれたら断れないといった若手の発言に加え、芸人として大御所である明石家さんま氏は、「カラテカ・入江氏にいろいろお世話になったから頼まれたら行く」とコメントし、ナインティナインの岡村隆史氏は、自身のラジオで「昔は吉本の社員が闇営業を入れていた、闇営業なしでは食べていけない芸人がたくさんいる」と発言している。
これらを総合すれば、闇営業の黙認や容認ではなく、事務所のマネジメントがボロボロであるということではないのか(吉本興業所属の芸人はこの状況を、会社に言っても動きが遅いから皆自主的に行動している、と情報番組でコメントしている)。
スポーツ選手や芸能人が反社組織に狙われる、利用される、といった話は今さら騒ぐような話ではない。そうならないように、各団体や事務所が新人に研修を施すなど厳しく対応している。それでも時おりトラブルは起きる状況で、吉本興業の対応もテレビ局の対応も甘いと言わざるを得ない。
研修を受けるべきは芸人なのか、それとも事務所幹部なのか、視聴者は厳しく見極めるべきだ。
執筆者 中嶋よしふみ
保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。
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