副業解禁の盲点 経験者が直面した「社外活動と退職は裏切り」という現実:専門家のイロメガネ(1/4 ページ)
終身雇用が終わりを告げるとともに、副業や兼業を容認する動きが目立ってきています。企業はそのための制度を整えていますが、副業や兼業に対する同僚の見方というソフト面は、まだ遅れています。実例と共に、副業解禁の見えない壁を確認していきましょう。
今年に入り、日本型雇用の変化を告げるニュースが話題になりました。経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車の豊田章男社長から「終身雇用の維持は難しい」という発言が報じられています。富士通やNECなどからも、45歳以上の社員を対象に大規模な早期退職勧告がなされています。
一方で、これまで禁止とする企業が多かった、副業や兼業を容認する動きも目立ってきました。
一連の動きを概観すると、国も企業も「終身雇用はなくなるが、副業・兼業を解禁するから、自分で第二の人生を切り開け」と言っているわけです。
しかし会社の外を必要以上に「敵視」する日本企業の発想が、副業兼業解禁の動きに対する見えない壁となっています。それを実際に経験したNさんとTさんのエピソードをまじえながら、キャリアコンサルタントとしてミドルの転身を支援している立場から、副業を推進する企業は何に注意しなければいけないかを分析してみます。
開かれなかった早期退職者への送別会
Nさんは大手通信機器メーカーの人事部で、課長として人材育成や社内研修講師などを担当していました。
Nさんの会社が初めて早期退職勧奨を行ったのは7年前です。Nさんはその時に同制度に応募、退職し、現在は企業研修や学校でのキャリア教育の講師として活動しています。
もともと人事部門の交流会や勉強会、資格取得などの社外活動に熱心に参加していたNさん。社外での企業研修講師養成講座では、メイン講師のアシスタントを請われるほどの実力を持っていました。そういった社外で仕入れた知見を、社内での新しい人材育成施策や研修の企画に反映していたそうです。
ただNさんのように社外の場に熱心に参加する人は、当時は珍しい存在でした。同僚を誘っても「社外にノウハウが流出すると困る」と、社外活動はもちろん、グループ企業内の人事部門連絡会でさえ参加する人は少なかったといいます。
業績悪化に伴い、徐々に新しい取り組みを進めにくくなるにつれ、やりがいを見失っていったNさん。そんな時に早期退職制度導入のアナウンスがあり、応じることを決意しました。
独立して感じるのは、大企業に在籍していたことで信頼を得やすいこと。そして業務の中で培ってきた企画提案力などのスキルは社外でも役に立つことだとNさんは語ります。
しかし、当時の同僚たちとの交流がほとんどなくなってしまったのは残念に感じるそうです。退職した時も、早期退職者への送別会は開かれなかったといいます。
「こちらは退職後の新しいステージに前向きなのに、会社の方は早期退職者にうしろめたさを持っていて、気持ちよく送りだせなかったように感じました」(Nさん)
気持ちの良い別れ方をできなかったことが尾を引いて、退職後に交流を持ちにくくなっているのだそうです。自己都合ではなく会社の事情によるものであっても、外に出ていく人間への思いや扱いがよく表れているといえます。
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