自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」と嘆いても仕方ない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。昨今の環境規制状況と、それが転換点にあることを解説する。各メーカーはそのための戦略を練ってきたが、ここにきて4つの番狂わせがあった。
中国の方向転換
さて、ここまでの話によって現状を分析すると、結局のところ、CAFEは売れるクルマの環境負荷を低減しない限り達成できないということであり、それを達成しているのはHVだけだということになる。
さらに、日本経済新聞やロイター、ブルームバーグなどが相次いで伝えた所によれば、EV化を旗振りしてきた中国政府は、実質的なHV優遇へと方針転換を検討しているらしい。
中国はこれまで経済政策を主眼として、EVで覇権を握るためにEV優遇政策を取ってきたのだが、中国国内の大気汚染が国際的に問題視されるに従い、政策の主軸は大気汚染浄化へと変わり始めた。
EVが予定通りに売れてくれればよかったのだが、絵に描いた餅は食えない。数々の極端なEV優遇政策を取ってきた中国ではあるが、やるだけのことをやって、現時点でのEV普及の限界を認めざるを得なくなった。もちろん、長期的に見ればEVは終わっていない。それは大事な技術なのだが、今すぐ環境を改善するためにはユーザーにとって利便性が高く価格もリーズナブルなHVしかない。これが現実である。
実は中国政府に先駆けて、インドでも同様の政策変更が行われている。CAFE規制が影響を及ぼす旧西側経済圏でもHV、インドでも中国でもHVとなれば、当面の趨勢(すうせい)は決まったようなものだ。
さて、これが今世界中の自動車メーカーをちょっとしたパニックに陥れている。ちょっと整理しよう。CAFEをクリアする方法はこれまで以下のように考えられてきた。EVや燃料電池(FCV)、バイオ燃料といった規制値を上回る効果を持つA群と、ディーゼル、HV、ダウンサイジングターボ、マイルドハイブリッドといった、規制値には届かないが改善が期待できるB群だ。
平均値を上げるには2つのアプローチがある。当たり前だが優れたものを増やすことと、劣ったものを減らすことだ。もちろんそれは併用することも可能だ。
A群はいうまでもない理想のゼロエミッションだ。これらは今後の開発いかんで、主流になるべき技術であり、本来は全部のクルマをこれらに置き換えたい。しかし現時点ではコストや運用上の問題が大きく、実現までにまだ時間がかかる。現実的な落とし所としては、とにかくA群を少しでも多く売って、全体の平均値を引き上げるけん引役にしたい。対して、B群は引っ張られる側だ。とにかく燃費の劣等生を無くして、平均値を引き下げないように頑張る役割である。
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