中国が握りたい「海底ケーブル」覇権 “ファーウェイ撤退”の本当の狙い:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
中国・ファーウェイを巡ってさまざまな動きが報じられているが、「海底ケーブル」ビジネスについてもひそかに注目されている。世界の通信を支える超重要インフラである海底ケーブルでも、中国と米国などの間で緊張感が高まっていくかもしれない。
「海底ケーブル冷戦」の可能性も
この動きは一見、ファーウェイ(そしてその背後にいる中国)が屈したかのように見えるが、実際はそうではない。というのも、ヘントン社は会長が中国共産党員であり、全人代のメンバーだからだ。
つまり、中国としては、海底ケーブルのビジネスは諦めておらず、ファーウェイを外してでもここを押さえておきたい、という意志の表れだとも取れる。
それもそうだ。スパイ工作に使える可能性がある海底ケーブルをどんどん自社で各地に敷設すれば、それだけインフラを押さえることができる。情報収集に使えなかったとしても、例えば、海底ケーブルを「遮断してしまう」という力を手にすることができる。また彼らの通信ケーブルをつなぐことができる通信機器を中国製に限定することだってできるだろう。そうなれば、地上にも自分たちのケーブル網を広げることができる。「陸路と海路」という意味のある一帯一路で、中国の「通信網」によるインフラ支配が拡大することを意味するのである。
そしてこの流れが広がっていけば、安全保障などのリスクを警戒する西側の国々と中国との間に、「海底ケーブル冷戦」とでもいえる分断が生まれる可能性すらある。
日本としては、NECに頑張ってもらい、安心して利用できる海底ケーブル網を広げてもらったほうがいい。もっとも、そんな懸念をしなくとも、米国が中国の海底ケーブル関連事業に対して、また強硬な動きをする可能性もあるのだが。しばらく海底ケーブル関連ニュースは要チェックかもしれない。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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