連載
月13万円で生活できるか 賃金を上げられない日本企業が陥る悪循環:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/5 ページ)
米フォードの創業者はかつて賃金を上げて生産性を高めた。現代の日本では、海外と比べて最低賃金は低いまま。普通の生活も困難な最低賃金レベルでの働き手は増えている。従業員が持つ「人の力」を最大限に活用するための賃金の適正化が急務だ。
米フォード・モーターの創業者で、同社を世界的な企業に育てたヘンリー・フォードは、かつて「1日5ドル」という当時としては破格の賃金を払ったとして注目を浴びました。彼が取材を受けるたびに好んで繰り返したのが、次のコメントです。
「われわれが考案した中で、最高の費用削減の手段の一つが、1日5ドルの賃金を決めたことだ」
1日5ドルという水準は、当時のフォード社の社員にとって、自社が開発・製造したT型フォードを買える水準です。社員の賃金を上げたことで生産性は向上。T型フォードは近代自動車の原点となった伝説の車として世界に名を広めたのです。
この話を日本の経営者たちはどう捉えるのでしょうか。今の日本では、フォードとは真逆の現象が起きています。
残念な日本の経営者は人件費を減らすことばかりに傾注しています。1990年代に輸入した「成果主義」も、非正規雇用の増加も、目的はコストカットでしかなかったと言わざるを得ません。
企業経営で一番の問題であり、経営者として最大のタブーが人件費カットであることは、歴史を振り返れば分かる。経営者が従業員1人当たりの人件費を抑えれば抑えるだけ、長期的に企業の競争力が低下し、費用対効果は悪くなります。
なのに……。最低賃金を1000円にすることでさえ、「それじゃ会社がつぶれる」と騒ぎ立てる始末です。
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