月13万円で生活できるか 賃金を上げられない日本企業が陥る悪循環:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/5 ページ)
米フォードの創業者はかつて賃金を上げて生産性を高めた。現代の日本では、海外と比べて最低賃金は低いまま。普通の生活も困難な最低賃金レベルでの働き手は増えている。従業員が持つ「人の力」を最大限に活用するための賃金の適正化が急務だ。
「時給901円」でも“普通の生活”はできない
7月31日、厚生労働省は2019年度の最低賃金(時給)の目安を、全国平均で27円引き上げて、時給901円とする方針を決めました。賃金の高い東京都と神奈川県では初めて1000円を超えることになりますが、賃金が最も低い鹿児島県では787円です。
政府は日本の最低賃金の上昇率に胸を張りますが、901円になっても欧州(英独仏)の約7割しかありません。
最低賃金上昇は世界的な傾向で、ドイツでは、17年1月から最低時給を8.84ユーロ(当時のレートで約1170円)に、フランスでは19年1月から10.03ユーロ(約1197円)に、英国では最低賃金の額を20年までに平均賃金の6割に引き上げるとの目標を掲げ、19年8月からは8.21ポンド(約1059円)に軒並み上昇。シアトル、サンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルスといった米国の大都市でも、15ドル(約1650円)にまで、段階的に引き上げる法案が可決されています。
日本では最低賃金の引き上げがもたらす負の側面がやたらとやり玉に挙げられたり、中小企業擁護論ばかりが取り沙汰されますが、901円になってもワーキングプアから脱するのは困難です。
例えば、フルタイムで働いても月額15万1368円(901円×8時間×21日)です。ここから社会保険料等を差し引いた手取り額は、たったの13万円程度。13万円でどう生活しろというのでしょうか?
しかも、最低賃金レベルでの働き手は年々増え、07年には最低賃金=719円に近い時給800円未満の人は7万2000人でしたが、17年には最低賃金=932円に近い時給1000円未満の人は27万5000人に増加。10年で4倍近くまで増えた計算になります(厚労省調べ)。
年収に換算した場合、13万円×12カ月で、156万円。普通の生活水準と比較して下回っている状態である「相対的貧困(貧困ライン)」は、1人世帯では年収122万円程度で、両親と子ども2人では244万円が基準となり、4人家族であれば月収およそ20万円以下。
つまり、最低賃金で働いた場合、相対的貧困層に入る可能性が極めて高く、最低でも時給1500円まで上げないことには、普通の生活はできません。
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