人事部長に求められる能力とは?(1/3 ページ)
組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する。
著者プロフィール:川口雅裕(かわぐち・まさひろ):
組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)
1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。
京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)
「人事」という言葉は曖昧で、使う人の立場やその時々の状況でいろいろな使われ方がなされる。経営者が「人事」と言う場合は、組織を変えたり人の配置を変更したりする意味であることが多い。中途採用などで「人事の経験者」を募集すれば、処遇システムの設計や研修の企画・実施をやっていた人はもちろん、評価や異動、労務管理の経験者、採用担当者、給与計算をやっていた人など、様々な人から応募がある。学生が「人事」という場合は、たいてい新卒採用のことを指している。
もちろん、いずれも人事部が担当している業務だからそれでいいのだが、人事部自身がその目的を定められない状況に陥りがちなのは、問題である。人事という言葉が曖昧であるのと同じように、人事部自身がその目的を曖昧なままにして業務を進めてしまっているケースはあまりに多い。人事部には、制度設計・教育研修・評価・異動・労務管理・勤怠管理・採用・給与など多岐に渡る業務があるが、これら相互の関連は実は容易には見つけられず、往々にしてバラバラに動いてしまっている。それぞれが、異なる目的を持って業務に取り組んでいる結果、互いの理解も協力も進まず、部内にセクショナリズムのようなものができ上がってしまってケースも少なくない。
例えば、こんな状況である。採用担当が、他社に負けない優秀な人材を頑張って採用してきた。ところが、それに対して教育研修担当者は「誰がどうやって育てるの?」と冷めた目で疑問を呈し、残念ながらミスマッチで退職してしまったケースでは労務管理の担当者が「採用ミスだ」と批判する。採用担当者からは、せっかく採用してきた人が育たず、モチベーションも高まらないのは、評価や給与のイマイチな仕組みをずっと放置しているからだと制度設計担当者への不満がたまっている。そんなストレス状況の中、人事部内の違う担当者からは女性活躍推進、長時間労働の是正、業務の効率化、職場環境の改善、コンプライアンス体制の見直しといった、まったく異なる視点の対応が提案されてくる。
組織がこのようになってしまう原因は、通常、リーダーの力不足である。人事部を束ねるポジションにいる者が、「人事の目的」を理解せず、目的がないから「グランド・デザイン」を描くこともできず、さらに、人や組織というものに対する自らの「思想」や「理念」もないからである。
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