人事部長に求められる能力とは?(3/3 ページ)
組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する。
最後に問われるのは、人事部長としての思想や理念である。人や組織に対する責任を負う立場として、自分がどのような人間観、組織観を持っているのかを明らかにすることだ。人間はどのようにすれば育つのか、どのようなときにやる気になるのか。組織はどのようにすればうまく回り、機能するのか。人は変わるのか、変わらないのか。優れた上司とは何か。
このような抽象的で深い問いに対する持論である。これは、人事部長の判断軸を支配するものであり、人事が行う施策や立てる企画にも大きな影響を与え、また人事部員の言動も左右するから、曖昧なままにしたり黙っていたりしていていいものではない。
人事部長としての思想や理念は、人事に関わる理論を本などで学べば獲得できるというものではまったくない。リーダーシップ、マネジメント、組織開発、コミュニケーションなどの分野のさまざまな知見を学ぶことは、もちろん悪いわけないが、それをそのまま人事部員の前で披露したところで、よく勉強していることが分かるだけだからだ。人事部員の心をつかむのは、多様な場面や人とのかかわりを経験し、そこから洞察して獲得した、人事部長ならではの深く独自性のある人間観・組織観である。
人事という仕事は、「法令を守っていればいい」という仕事ではないし、うまくいった他社の例や世間の横並びを参考にしてやれば上手くいくという仕事でもない。ビジネスも違えば、規模も歴史も人材も会社によってそれぞれであり、それゆえにオプションは無限であり、人事とはフリーハンドなのである。そのような状況で、結果にもっとも影響を与えるのは、人事部長の極めて抽象的な思考力と、それを支える人格や教養だろう。
人事部長に求められる能力とは、社内人脈でも個別案件に是々非々で調整・対応する力でもない。『環境変化に組織と人をどう最適化させるか、という人事の目的に即した“所信”を作り、表明する力』、『グランド・デザインを描き、伝え、ナビゲートする力』。そして、磨き続けてきた人格や、会社人間とは違う幅広い見識と教養が滲み出るに違いない『独自の優れた人間観や組織観』の三点なのである。(川口 雅裕)
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