日本企業が欧米のアニメ・マンガ業界“支配”に挑む!? 相次ぐ買収劇に潜む「真の狙い」とは:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(5/5 ページ)
日本企業が欧米のオタクコンテンツ系企業を相次ぎ買収している。あまり話題にならないニュースだがアニメ・マンガ業界の大転換も。アニメ・映像報道の第一人者、数土直志氏が斬る。
激動のエンタメ業界、「金で時間を買う」日本勢
センタイは、近年急激に強まる業界各社の大資本化に懸念を募らせていた。巨大化するアニメ・マンガ産業に資金力で追い付かない。年商数兆円を誇るハリウッドメジャー、Netflix、Amazonの市場参入で加速する、独立系企業各社に共通する悩みだ。そこで日本企業を含めた外部資本を求めるようになった。
しかし例えば、ファニメーションのようにどこか大きな企業の傘下になるのは躊躇(ちゅうちょ)する傾向がある。ある特定のグループ企業になることは、別の企業から反発を招くからだ。センタイは多くの取引先企業があるから、特定の企業の色がつくことでこれまでのビジネスが縮小する可能性があった。
それはクールジャパン機構も同様だ。クールジャパン政策で何かとやり玉にあがることの多いクールジャパン機構だが、そもそも組織のミッションである「日本のクリエイティブ産業の振興」と「投資利益の確保」は矛盾する。企業のミッションは「公共性」なのか「利益」なのか。もちろん両方と言えるし、さらに国のお金も投入される以上「中立性」も求められる。
業界に対して中立な立場にあるセンタイの企業カラーは、クールジャパン機構のミッションに合う。さらに日本の多数の企業から多様な作品のライセンスを取得し、市場に流通するセンタイはクリエイティブ産業振興という目的にも合致している。クールジャパン機構のセンタイへの出資という意表をついた取り組みは、双方が「どこの企業グループにも属さない」という点で互いに都合が良かった。
M&Aの目的で「金で時間を買う」とよく言われる。ゼロから育てるリスクと時間を、買収によってカットすることだ。
アニメだけでなく、今や世界のエンタメ業界は大激動の中にある。日本アニメはこれまでハイティーンから20代の青年層に強いと言われ、この分野で圧倒的なシェアを誇ってきた。しかし現在、この青年向けマーケットは各国のエンタメ企業が目をつける成長市場だ。青年層をターゲットにした作品は世界的に急増している。
だからこそ日本は一歩も二歩も先を行かなければいけないが、残された時間はさほど多くない。時間を買わなければいけない理由がここにある。
日本アニメやマンガの海外普及が進む一方で、その人気拡大の重要なツールとなる映像配信やデジタル書籍のプラットフォームは海外企業に大きく依存している。映像配信であればNetflix、Amazonプライムビデオ、マンガで言えばAmazon Kindleといった具合だ。放送や映画配給も海外に関しては外資依存が相変わらずだ。
コンテツの流通システムが外資に押さえられているからこそ、商品や周辺サービスだけは日本が市場を取りにいくべき、という構造もある。コンテンツ流通の大元が外資に押さえられる一方で、その周辺産業においては、M&Aにより日本企業の影響力が強まるという、対称的で不思議な状況が進んでいる。
海外市場では現地企業・外資系企業に押されがちと思われている日本だが、相次ぐM&Aはコンテンツビジネスがそれほどシンプルな構造でないことを示している。まだまだ日本のビジネスプレイヤーが海外市場で活躍する余地は大きい。昨今のM&A状況はそれを示しているともいえるだろう。
関連記事
- “冬の時代”から始まった平成アニメ、いかに2兆円産業に飛躍したか
アニメ・映像ジャーナリストの数土氏が平成アニメビジネス史を総括する。冬の時代から今の繁栄にどう至ったのか。 - 発売中止の作品まで…… アニメの“円盤”は消滅するのか?
アニメのBlu-rayやDVDの売り上げが減少している。動画配信サービスの普及が要因。ただ配信終了した作品は見れなくなるため揺り戻しの可能性も。 - ディズニー、Hulu…… 動画配信の覇権争いは日本アニメをどう変えるか
覇権争いを激化させる映像配信プラットフォームの巨人たち。日本アニメにどんな影響を与えるか。アニメ・映像ビジネス報道の第一人者が斬る。 - ハマーン・カーンの栄光と凋落に見る組織運営の要諦
ネオ・ジオンの若き指導者、ハマーン・カーン。彼女は組織運営にいかに成功し、そして失墜したのか。人口動態やガバナンスの観点から探る。 - アジア攻めるNetflix、日本作品は生き残れるか 首脳部に直撃
映像配信の帝王、Netflixのアジア戦略に密着。シンガポールのイベントでは日本コンテンツの微妙な立ち位置が浮き彫りに。幹部は日本の出版社買収にも関心抱く。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.