繰り返される「のぞき見採用」 リクナビ問題に透ける新卒採用の“勘違い”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
「リクナビ」の内定辞退率予測データを巡る問題が広がりを見せている。採用側のコミュニケーション能力が貧弱だと感じる事例が毎年のように繰り返されている。学生にとって「就職先を志願する」ことは重い。採用側の姿勢を見直すことが必要だ。
“志”を学生に伝えているか
これまで取材させていただいたり、訪問させていただいたりした企業の中で、規模が小さくとも、世間的に知名度が低くとも、いい製品やサービスを生み出して成長し続けている会社は、必ずと言っていいほど採用に手間をかけていました。自分たちの思い、自分たちのやってきたこと、自分たちの会社のことを学生たちに伝えるために、自ら大学に出向き、きちんと学生と向き合う時間を大切にしていました。
良いことばかりではなく、悪いことも正直に伝え、「自分たちと同じ志を持って、いばらの道を歩いていこうという意志がアナタにはありますか?」と、直接学生と向き合い問うていました。
採用担当者が、北は北海道から南は沖縄まで「来てほしい」という大学に出向いて、説明会の参加希望者から電話で申し込みを受け付け、直接採用担当者の話を聞いた学生だけにエントリーシートを書いてもらう。そんな試みをした企業もあります。当然ながら、エントリーする学生は激減しますが、その分、熱い思いを持つ学生一人一人と向き合うことが可能です。
それは学生にとっては、自分が入社したあとに「どんな上司や先輩と出会うか」を知ることにもなるに違いありません。
たとえその先に転職することがあろうとも、最初に就いた仕事は、その後のキャリアに大きな影響を及ぼす重要な道しるべです。それだけに、採用する側が汗をかき、自分たちの言葉を直に語りかけることが大切だと思うのです。
昨今の就活狂想曲にはさまざまな角度から異議を唱えてきましたが、ついにAI頼みに。しかも日本を代表する企業が……。本当に残念です。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)
お知らせ
新刊『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)が発売されました!
2017年発売の『他人をバカにしたがる男たち』で解説した「ジジイの壁」の背景となる「会社員という病」に迫ります。
“ジジイ”の必殺技は「足を引っぱる」こと。公の場で「彼女の発言を補足しますと……」と口を挟んでしまう“面目つぶし”、「私は指示したのですが○○が動かなくて……」と相手を悪者にする“責任逃れ落とし”、他人に関する必要のない情報を上司に伝える“アピつぶし”、そして“学歴落とし”や“悪評流し”――。
不毛な言動に精を出して「ジジイ化」してしまう人たちのジレンマと不安の正体について解説します。
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