ワーキングマザーを“戦力外”にするな 企業の「小1の壁」「小4の壁」の乗り越え方:人材流出を防ぐために(4/4 ページ)
いまだに難しい育児と仕事の両立。小学校就学後も子どものケアを理由に退職する女性は多い。パーソル総研の研究員が調査結果を元に処方箋を提案する。
育児中の時短社員をどう戦力にするか
そうは言っても、長期間にわたって短時間勤務を認められるほど人員に余裕がないと考える企業も多いでしょう。
短時間勤務者が、仕事と子育ての両立はできるものの昇進・昇格とは縁遠いキャリアコース、いわゆる「マミートラック」に陥ることがある現状においては、長期間の短時間勤務は企業にとっても個人にとっても不幸な結果をもたらします。数年後にはフルタイムで戦力に戻ることを前提に、猶予期間として短時間勤務を捉える企業が多いなか、戦力外で「使えない」社員を長年抱えることや仕事をカバーせざるを得ない周りの社員への「しわ寄せ」を考えると、現場の負荷は多大です。
しかし、時間に制約がある社員が「使えない」と見なされるのは、正社員の労働時間が限定されていないことを前提としているからではないでしょうか。今後、誰もが制約を抱えうる時代が到来することを考えると、人員に余裕がない企業こそ、短い時間であってもその時間に見合った貢献を求めていく視点や雇用の制度、仕組みが不可欠です。
短時間で貢献する「戦力」として、短時間勤務社員を見直してみると、違った見方ができるかもしれません。
営利企業である以上、社員一人一人の投入時間あたりのアウトプットを最大化していくことが大切です。時間に制約がある社員のマネジメントは確かに手間がかかるものの、仕事の時間をコントロールすることで、時間あたりの期待に見合ったパフォーマンスを出すことができれば、企業にとっても本人にとってもメリットと言えます。もちろん、企業への多大な量的貢献をした人が適正に評価されるのは当然ですが、総量での貢献の他に「時間効率」という評価軸を加えることで時間意識を高めて労働生産性を向上させることは働き方改革の流れとも整合的であり、これからの時代に企業が進むべき道であると言えます
時短勤務でも柔軟なキャリア形成を
キャリア形成の観点から見ると、長期的な短時間勤務で成長スピードに遅れが出る可能性があることはやむを得ない事実です。しかし、勤務時間が短いことでスピードは遅くなったとしても、勤務時間に見合った成長ができ、キャリアを積んでいけることが必要です。一定の入社年次に昇進・昇格することを想定した画一的なキャリアコースにおいては、短時間勤務でいわゆる「マミートラック」に乗ることが出世コースからの脱落につながりかねませんが、短時間勤務をしている時期も将来の昇進を見据えた育成がなされ、しかるべき時期になったとき、昇進にふさわしい能力・経験を保有していることが必要です。
さらに言えば、柔軟な働き方であれば働ける優秀な人材に活躍してもらうために、管理職でも時短勤務ができるように、管理職の在り方を見直す必要があるかもしれません。周辺業務の切り出しではなく、決めた勤務時間の範囲でコア業務を担うにはどうしたらいいかを真剣に考えるのであれば、ビジネスプロセスの根本的な見直しが必要になるかもしれません。大掛かりではありますが、これからの時代に競争優位性を保つには、避けられない道と言えます。
ワーキングマザーが抱える家庭との両立、成果をあげること、キャリア形成の問題は、これから時間的な制約なしに働ける人が減っていくなかで誰もが直面しうる課題です。"小1以降の壁"は、長期間の短時間勤務の是非を問うことで、「無限定」ではない働き方で企業の持続的成長が可能かという問題を提起しているのかもしれません。
勤務時間の短縮を含む柔軟な働き方を選択できる職場環境を整備し、限られた時間であっても十分なスキルと能力を保有する社員に戦力として力を発揮してもらうことが、これからの時代で「勝つための企業戦略」であり、企業の社会的価値向上につながっていくことでしょう。
ワーキングマザー調査 調査概要
調査手法:個人に対するインターネット定量調査
調査対象:有効回収数 2100人
小学生以下の子どもがいる正社員女性 900人
小学生以下の子どもがいる正社員を辞めた女性 300人
小学生以下の子どもがいる正社員女性の配偶者(正社員男性) 300人
小学生以下の子どもがいる正社員を辞めた女性の配偶者(正社員男性) 200人
上司(小学生以下の子どもがいる正社員女性部下がいる係長・主任相当以上) 200人
同僚(小学生以下の子どもがいる正社員女性が部署内にいて業務上のかかわりがある一般社員) 200人
調査時期:2019年1月
著者プロフィール
砂川和泉(すながわ いずみ)
パーソル総合研究所 研究員
大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査の企画・分析やクライアントが保有するID-POSデータの分析を担当した後、2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、ワーキングマザーの就労、キャリアなど。
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