MITメディアラボの失態に見る、スポンサーと研究資金の闇:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
米マサチューセッツ工科大学のメディアラボ所長が、性犯罪で起訴された富豪から資金を受け取り、隠蔽しようとしたことが暴露された。世界的な研究機関が“怪しい人物”からカネを受け取ってしまったのはなぜか。背景には、研究機関とスポンサーの関係がある。
“汚いカネ”は有望な研究を妨げる
筆者は、メディアラボのような世界的な研究所に多額の研究費を寄付することは、法にのっとって処理していれば何ら問題はないと考えている。そうした資金をもとに、技術革新や研究開発が行われている場合があるのも事実で、結果的に、その恩恵を私たちも受けることになるからだ。
ただ性犯罪者だと知りつつ、寄付を無条件で受け入れ、隠蔽工作をするのはまずい。研究所の名を汚すだけでなく、純粋に研究開発のために多額の資金を提供して研究者を送り込んでいる民間企業にも、多大なる迷惑が掛かることになる。
メディアラボのような研究所は、「ダーティなマネーでも何でもバレないように受け入れている」という負のイメージが付いてしまうと死活問題になる。しかも研究所の設立者でもある大ボスが「今だったとしても、カネは受け取る」と言ってのけるのは、賢明ではない。大変な失言だと言えよう。
日本でも反社会勢力からお金を受けとれば、激しい批判が起きる。未成年者への性的虐待で有罪になっていたことが公に知らされている人物から、バレないように寄付を受けるのは、今の時代なら隠し通すこともできないだろう。
問題がさらに大きくなる前に、全ての責任を引き受けて早々と辞任した伊藤氏の判断はさすがである。メディアラボが負った傷は、まだ浅くて済んだと言えそうだ。
「暴言」を吐いたネグロポンテ氏が今も影響力を持つMITメディアラボ、次の所長がどういう方針を示すのか注目したい。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最新刊は『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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