なぜデンマークは、消費税が25%でも軽減税率を導入しないのか:専門家のイロメガネ(2/8 ページ)
軽減税率は、一見すると正しそうな制度に見えるが、この制度が原因で、小売業界と飲食業界は混乱の極みにある。軽減税率は徴税コストが高く、線引きに手間がかかり、脱法行為を生み出しかねず、高所得者に有利。だから軽減税率よりも別の手段で還元した方が好ましい。デンマークはこのように軽減税率そのものを完全に否定している。
デンマークが軽減税率を導入しない5つの理由
デンマークはEUの中でも小国の部類になる。
面積は日本でいえば関東(一都六県)より少し広い程度、人口は600万人程度で千葉県より少ない。一方で豊かさの度合いとしても使われる、一人当たりの名目GDPは18年時点で6万ドル超で日本の約1.5倍、世界ランキングでは10位と豊かな国だ。先進国では最低水準に近い日本の26位と比べてもその差は際立つ。(参照・IMF World Economic Outlook Database, April 2019)
国土交通省の作成した資料でも、「高い所得水準と国際競争力 」「幸福度世界1位の高福祉国家」「国民の能力を活用・向上する仕組み」「高い所得水準・国際競争力・特色ある産業発展」と、べた褒めされている(参照・デンマークの経済社会について 国土交通省 国土政策局 平成26年4月)。
さまざまな面で条件は異なるが、EU各国が軽減税率を導入する一方で、デンマークが導入しない理由は極めて明解で合理的だ。そしてその理由を日本のデンマーク大使館はFacebookで以下のように5つ、挙げている。
(1)徴税コストを抑制する
(2)軽減税率の適用対象品目の峻別(しゅんべつ)が困難である
(3)税の歪(ゆが)みを抑制する
(4)高所得者は食料品に対しても相応の支出を行うため高所得者の方が軽減税率による負担軽減額が多くなる
(5)低所得者への配慮は社会保障給付によって行う方が効率的である
なお、慈善活動や文化活動、非営利活動などにより提供されるサービスなどは非課税となっています。
詳しく説明する前にざっくりと整理すると、軽減税率は徴税コストが高く、線引きに手間がかかり、脱法行為を生み出しかねず、高所得者に有利。だから軽減税率よりも別の手段で還元した方が好ましい、ということになる。デンマークは軽減税率そのものを完全に否定している。
1〜4はすでに指摘したような、これから日本でも起きる問題を避けるためだ。
1の徴税コストは、税率が商品や販売方法によって異なれば複雑になり、正確に事業者が消費税を受け取って納めているか確認する必要がある。国税庁は軽減税率の開始にあたって大量の資料やガイドラインを出しているが、軽減税率がなければこれらは一切不要だ。そもそもEUで軽減税率は、標準税率(通常の消費税)が15%以上と高い水準でなければ設定できないことになっている。
そして日本のように、たった2%しか差をつけていない国もほとんどない。多くの国が10%以上の差を付けている。それだけ差を付けなければ、わざわざ手間とコストをかけてまで軽減税率を設ける意味がないからだ。ここでいうコストは税務署と企業側のコスト両方だ。
主に軽減税率が適用される飲食業、小売業の利益率は大手企業であっても2%とか3%という低い水準であることも珍しくない。このような薄い利益が軽減税率の対応で削り取られることになる。近いうちに「軽減税率倒産」が出てもおかしくないレベルだ。
関連記事
- 10月から始まるキャッシュレス還元、どこで使えてどこが何%? Zaimが「キャッシュレス還元マップ」公開
政府が行うキャッシュレス還元が、10月から始まる。ただし、利用できる店舗、できない店舗が入り乱れ、フランチャイズでは還元率も異なる。経産省が公開した一覧は、3600ページにおよぶPDFだ。Zaimは、店舗の検索が行える「キャッシュレス還元マップ」を公開した。 - なぜアコムは、いまだに過払い金問題で消耗しているのか?
一見昔話のようにも思う過払い金問題。しかし、現在も消費者金融各社は過払い金返還に苦しんでいる。特にアコムは当初の想定どおりに引当金が減っていない。なぜ過払い金の正確な返還額が計算できないのか。そこには、過払い金の返還請求を遅らせると、そこに利息がついてくるなどの制度的な理由があった。 - 麻生氏「年金受給記憶ない」発言が物議 共産党・小池氏のでたらめな批判内容
老後資金は2000万円不足する……問題の議論の過程で、年金に関する勘違いを助長する話が出ている。日本共産党の小池昇氏のツイートを見ると、同氏も年金を理解していない。小池氏の勘違いは社会保障制度の誤解を招く可能性がある。 - キャッシュレス決済市場は5年後、規模1.5倍に 矢野経済研究所
矢野経済研究所の予測によると、2018年度の国内キャッシュレス決済市場規模は約82兆円に達し、19年度は約89兆円を超え、5年後には126兆円に。また18年度のQRコード決済は1500億円規模だが、23年には約2兆円に拡大すると予測している。 - 庶民と金持ちの格差広がる 消費税増税のポイントは景気対策ではない!
2019年10月に消費税が10%に引き上げされる。これがなぜ景気の落ち込みにつながるか? 増税すれば消費者の財布から消費の原資を奪うのは当然だが、最大の理由は消費税の所得逆進性にあるのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.