スバルとトヨタ、資本提携強化でどうなるのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
トヨタがスバルへの出資を強化して関連会社化するとともに、スバルもトヨタ株を取得する。スバルは、マツダ、スズキと並んでトヨタアライアンスにおいて、最恵国待遇を得たことになる。なお、ダイハツは、トヨタが全株式を取得し、すでに100%子会社となっている。つまり今回のスバルの株式相互保有によって、トヨタアライアンスの資本提携は一応の完結を迎える。
CAFE規制への対応
そもそも株式の相互保有が意味するのは、他人から身内への大きな立場の転換だ。トヨタがもうかればその配当が得られるのでマツダ、スズキ、スバルにも利益がもたらされるし、トヨタが損をすれば損をする。一蓮托生(いちれんたくしょう)になることで、相互信頼が深まり、ただの提携では踏み込めない領域での提携が進むことになる。
さて、一連の資本提携において、トヨタが与えるものは割と明確だ。リリースにも書かれている通り、CASE領域の技術がその核になる。特に厳しさを増すCAFE規制の中で、トヨタの持つHV(ハイブリッド)技術の存在は大きい。
目前に迫った2020年の規制値をクリアできる見込みが立っているのは、世界でトヨタだけ。EVを1台も売っていないトヨタがそれをクリアできるのは、HVを大量に販売しているからだ。CAFEとはメーカーが販売した全てのクルマの平均CO2排出量を規制するものなので、どんなに素晴らしいゼロエミッションカーであろうとも、売れなければ絵に描いた餅にしかならない。
確かにHVはEVに比べればCO2排出量は多いが、エンジン車1万台のうち4000台のハイブリッドを含む集合と、同じく1万台のうち10台のEVを含む集合で平均値を勝負しても話にならない。もちろん将来はEVをもっともっと売れるようにしていかなくてはならないが、今のバッテリー価格では庶民の手が届く価格にはならない。
そしてCAFEがクリアできないと、多額のクレジットを買う必要がある。実質的には罰金だ。アライアンス傘下の4社は、当面多額のクレジットで経営が圧迫される。だからこそトヨタの持つHVシステムを導入して、なんとかして平均CO2排出量を下げていかなくてはならない。
また、少し遠い未来にはEVの時代がやってくる。そのためにはバッテリー技術が欠かせない。むしろバッテリー技術がEVの本格的普及のタイミングを決めるし、そこでの勝者を決める。現在世界を見渡して、ある程度以上の規模で、バッテリーを開発している自動車メーカーはトヨタと中国のBYDしかない。もっともBYDの場合はバッテリーメーカーが自動車を開発しているという方が正しい表現かもしれない。
いずれにせよ、バッテリーの技術においてトヨタはトップランナーの1社であり、次世代においてもトヨタと組んでおくことの意味は大きい。
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