なぜ赤字でも安売りするのか? 「失敗する値決め」と「成功する値決め」の違いに迫る:上げるか下げるか「値決め」最前線(4/4 ページ)
消費増税で「値決め」に関する各社のスタンスに違いが出た。担当者にとって悩ましいのが「値決め」の考え方。プロが4つのアプローチで解説する。
値決めの成功と失敗
おそらく、通常の読者が関わるのは、(2)と(3)だろう。いわゆるBtoC商品といえる。ただ、このBtoC商品のケースで難しいのは、値付けの「成功」と「失敗」の定義だ。企業は利益を出すのが目的で存在している。だから、成功は黒字の商品、失敗は赤字の商品、と通常では考えられている。最も多くの利益を稼げるのが、最も成功した値決めだと。
しかし、「政策決定法」では、そもそも客寄せのマグネット商品として使われる。赤字になっても、集客ができて、関連商品とともに売り上げが上がればトータルでは辻褄(つじつま)が合う。とはいっても、そのマグネット商品をいっそのこと0円で販売すればいいのかというと、それではトータルでも利益を最大化できない。
また、消費増税のあと、2%分を課税するのは当たり前のことなのに、「市場価格類推法」で調査すると、そのたった2%を課税することが消費の大幅な減少につながってしまうこともあるかもしれない。
そんなとき、普通に考えると利益を減らしてしまうかもしれないものの、価格を2%上げると、もっと利益を減らしてしまうと分かれば、あえて価格を据え置いたほうが「よりまし」となる。例えば、企業が価格を下げて減収減益になった際、メディアは「価格政策の失敗」と叫ぶ。ただ、価格を維持すれば、もっと減収減益になった可能性が高い。
だから、マクドナルドでは主力商品の価格を据え置いたし、これまで消費増税をきっかけに訴求力を上げてきたニトリは、満を持して、むしろ増税以上に値下げすると発表した。
成功する値付けとは?
だから、ありていにいえば、成功する価格決定とは「客寄せ品を据え置きつつ、トータルの粗利益を確保するために、ついで買いされる商品の価格を上げる」となる。そして、重要なのは、価格に見合った商品の質を上げる努力を惜しまないことだ。凡庸な結論だが、本当に重要なので繰り返すと、商品の質を上げて、ユーザーに選んでもらう努力を重ねることだ。そうすれば代替品へのスイッチは起こりにくい。
最終的には、すぐれた商品を提供する会社が生き残っている。あくまでそのうえでの価格決定がある。
今回の消費増税では各社の対応が分かれた。価格決定もさまざまなケースがあった。この先1年間の各社の業績を比べると面白いだろう。それは、消費税分の値上げをしたにもかかわらず、業績が好調な企業と不調な企業が出てくるからだ。価格決定は、あくまでも、商品力の先にあるものだということが分かるだろう。
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