「さば」はなぜ「ツナ」を超えたのか? 熱血“さば”社長と外食産業の“必然”が生んだブーム:新連載・食の流行をたどる(5/6 ページ)
「さば」の大ブームが起きている。食のブームを分析してみると、いくつかの共通項目がある。さばブームをけん引した熱血社長の取材から見えてきた流行の条件とは?
消費者視点でさばブームを考える
では、なぜこれほどに“食シーン”全般でさばがブームになったのか? 消費者観点でさばブームの背景について、筆者の見解をまとめたい。ブームの背景は3つあると考える。
食のブームは、外食が起点になっていることが多い。その外食業界における専門店ブームが背景の1つ目だ。人々のライフスタイルの変化に伴い、テークアウトやお惣菜など、いわゆる中食が進化。結果、外食業界はこの中食との差別化を図ることが必要とされた。イタリアン一つとっても、肉専門イタリアンや魚介専門イタリアンなど、少しエッジの効いた業態の展開が始まった。この、外食でしか味わえない特別感やエンターテインメント性を求められる時代となりつつある2009年に「SABAR」1号店がオープン。居酒屋業態において、“さばメニュー”のみで勝負する潔さ。そして、家庭では決して味わうことのできないさばメニューの数々が話題を生み、大ブレークしたのである。
2つ目は、SNS映え。家庭ではさば缶が大ブレークしたが、その背景には、パッケージの“おしゃれ化”がある。目を引くような黄色いパッケージを採用した「サヴァ缶」が登場。これは国産さばをオリーブオイル漬けにしたものだ。東日本大震災から立ち直るため、東日本の食の復興と、日本の食文化を世界に発信することを目指す一般社団法人「東の食の会」が手掛けている。レモンバジルやパプリカチリ味など、バラエティに富んだ商品開発も功を奏した。このおしゃれなさば缶がコンビニでも気軽に手に入ることで出荷量が伸び、なんと発売から6年目で500万個を突破したという。コーヒーや輸入食品を扱うチェーン「カルディ」で販売されている、キャメル珈琲の「さばの水煮」もおしゃれなパッケージとなっており、食卓に飾ってSNSにアップする主婦の間で大変な人気になった。
3つ目は健康志向。青魚は元来、体にいいとされている。その中でもさばは脂質が極めて豊富で、EPAやDHAの含有量は青魚の中でも群を抜いているといわれている。そしてさば缶は、皮も骨も含め、その栄養豊富な鯖を丸ごと食べられる。80代でエベレストにチャレンジするアルピニストの三浦雄一郎さんが、毎日、さば缶と納豆を食していることも話題となった。
このような背景を基に、さばが多くのメディアで取り上げられ、一気にブームは頂点に達したのである。
著者プロフィール
有木 真理(ありき まり)
「ホットペッパーグルメ外食総研」上席研究員。1998年、同志社大学を卒業後、外食チェーン店へ。6年間勤務したのちに、フリーのフードコーディネーターに。2003年、リクルートに入社し、『ホットペッパーグルメ』に従事。全国の営業部長を経たのち、2017年、リクルートライフスタイル沖縄の代表を務めると共に、「ホットペッパーグルメ外食総研」の上席研究員として、食のトレンドや食文化の発信により、外食文化の醸成や更なる外食機会の創出を目指す。自身の年間外食回数300回以上。ジャンルは立ち飲み〜高級店まで多岐にわたり、全国の食に詳しい。趣味はトライアスロン。胃腸の強さがうりで1日5食くらいは平気で食べることができる。食を通じて「人」と「事」をつなげるイベントオーガナイザーも務める。自らが「トレンドウォッチャー」として情報発信を行う。
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