職場で見過ごされる“心の暴力” 教員暴行事件に見る、オトナ社会の異常さ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/5 ページ)
神戸市の小学校教師の問題が「いじめ事件」と報じられていることに違和感がある。これは暴行だ。このような大人の言動を見て子どもは育つ。子どものいじめ問題以前に、「パワハラ」という精神的暴力、“見て見ぬふり”の姿勢をどうにかしなければならない。
この国際シンポジウムは1996年から始まったもので10年おきに開催されています。主催は国立教育政策研究所で、シンポジウムにはスウェーデン、オーストラリア、米国、カナダ、韓国などの教育研究者らが参加し、各国のいじめ対策の在り方についての討論が行われてきました。
件の調査結果は日本のいじめの特異性を分析するために、暴力犯罪が少ないとされるスウェーデンと比較したもので、「軽くぶつかる・たたく・蹴る」の暴力を伴ういじめの被害について比較したところ、小学6年、中学2年の男女いずれもスウェーデンが日本を上回り、特に小6男子では、スウェーデンの65.6%に対し、日本は半分の32.8%でした(「今の学期で1、2回」から「週に数回」までの4段階を合わせた経験率)。
ところが、です。暴力を伴わない「仲間外れ・無視・陰口」の被害経験率は小6、中2の男女いずれも、日本がスウェーデンより高いことが分かりました。特に小6で著しく高く、スウェーデンで21.4%だったのに対し、日本では倍以上の43.4%。日本では仲間外れなどを大人が容認する空気があり、子どもに伝わっている可能性があるという示唆が得られてしまったのです。
これまでの調査でも、日本は他国と比べ「暴力を伴ういじめ」が少ない傾向にあることが分かっていました。しかし、いじめを原因とする自殺が後を絶たないことから、「何が子どもたちを追い詰めるのか?」を明らかにしようと、欧米の中で暴力が少ないスウェーデンと比較したのです。
そして、そういった違いが生まれる背景として、参加者たちが注目したのが、スウェーデンと日本のこれまでの「足跡」です。
スウェーデンでは、仲間外れなどを人権問題と捉え、議論に大人も巻き込み、法律でいじめをやめさせるような対策を長年続けていました。一方、日本では、1980年代に校内暴力が社会問題になってから、暴力には厳しい視線が注がれ、教師の体罰なども厳しく罰せられるようになった。しかしながら、仲間外れや陰口などは大人が日常的にしていることが多く、それを見た子どもたちが「自分たちもやってもいいんだ」と感じている可能性があると考えられる、としたのです。
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