新幹線を水没から救え――1967年7月豪雨「伝説の戦い」が伝える教訓:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)
台風19号で被災した北陸新幹線は、多くの職員の復旧作業により全線直通運転を再開した。今回の被害は誰にも予測できなかった。しかし、過去には新幹線車両を待避させて水害から守った事例がある。「1967年鳥飼車両基地の伝説」だ。経験に学ぶことが必要ではないか。
北陸新幹線は10月25日から全線直通運転を再開した。東京〜金沢間の運行本数は、定期列車と比較して1往復減にとどまった。15日の報道では「全線復旧まで1〜2週間、運行本数は5〜6割程度」だった。最悪の予想より早く復旧し、運行本数も多い。
鉄道被災の復旧見積もりは常に最悪の状態を想定しており、工事に着手すれば見込みより早まる傾向にある。多くの職員が復旧に尽力した。その中には、自宅や縁者が被災した方もいたことだろう。利用者として復旧を心から感謝するとともに、少し心が痛む。被災された人々が1日も早く平穏な日常に戻れるよう願う。
実は大幅な減便になっている
「電車120両水没映像」は絶望的な気分にさせられた。復旧にあたっては予想通り、上越新幹線向けの新型車両を一時的に北陸新幹線へ充当した。上越新幹線は新型の導入を先送りして、旧型車両を延命させた。上越新幹線の車両も足りないときは、東北新幹線から融通できる。もうすぐスキーシーズンとなるため、上越新幹線は稼ぎ時を迎える。(関連記事:水没した北陸新幹線 「代替不可」の理由と「車両共通化」の真実)
北陸新幹線の暫定ダイヤを見ると、東京〜金沢間の速達タイプ「かがやき」は定期列車より1往復少ない9往復。停車タイプ「はくたか」は定期列車と同じ14往復だ。その代わり、東京〜長野間の「あさま」は下りが定期列車より6本減の11本、上りが定期列車より5本減の12本となった。つまり、「あさま」として往復させる列車を減らし、金沢まで足を伸ばすことで「かがやき」「はくたか」を維持している。被災と関係ない金沢〜富山間の「つるぎ」も定期列車の上り1本が減便となり、東京〜金沢間に車両を提供した形だ。
このように書くと「東京〜金沢間は復旧したも同然」と思うかもしれない。しかし注意深く読むと、これは定期列車と比較した場合だ。実際にはこの時期、秋の行楽向け臨時列車が設定されていた。定番クラスの臨時列車は「かがやき」3往復、「はくたか」1往復、「あさま」3往復、ほかにも週末のみ、特定の日だけ、という臨時列車があった。これらが全て減便したことになる。JR東日本は車両の手当ができ次第、臨時列車も増やすと発表している。まずは大幅に減便された「あさま」に充当するという。
想定されていた臨時列車の減少は、観光地にとって集客に影響する。乗客としても指定席が取りにくいという状態になる。実は安心している場合ではない。完全復旧までは迂回(うかい)経路も検討するだろう。航空機の臨時便や迂回経路の列車増便は、もう少し続けてほしい。
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