新幹線を水没から救え――1967年7月豪雨「伝説の戦い」が伝える教訓:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)
台風19号で被災した北陸新幹線は、多くの職員の復旧作業により全線直通運転を再開した。今回の被害は誰にも予測できなかった。しかし、過去には新幹線車両を待避させて水害から守った事例がある。「1967年鳥飼車両基地の伝説」だ。経験に学ぶことが必要ではないか。
誰も気付かなかった「車両待避」
北陸新幹線車両の水没映像が報じられたとき、ネットでは「電車を高架駅に運んでおけばよかった」とか「鳥飼車両基地では車両を移動させて水没を逃れたことがある」という声が上がった。2015年の鬼怒川堤防決壊の時は、関東鉄道水海道基地の車両を新守谷駅に待避させたという事例もある。新聞報道でも指摘されている。しかし、全ては後の祭りだ。後から言うなんて誰でもできる。誰も事前に予測できず、責める資格はない。
ただし、その「誰も事前に予測できず」という状態は反省しなくてはいけない。過去に事例があったにもかかわらず、その経験が継承されていない。そこは問題だ。改める必要がある。
「私は、少なくとも2編成は待避できたと思います」
国鉄OBのA氏からメールをいただいた。昭和40年代に鳥飼車両基地(大阪運転所)で整備掛として勤務していたという。A氏によると、鳥飼車両基地の内規に「降雨時の夜間は検修当直助役が、運転所構内の北側を流れる安威川(あいがわ)の水位を確認せよ」と定められていた。水位計もあっただろうけれど、目視だからこそ数値に表れない水の勢いが読み取れたかもしれない。A氏は「台風シーズンに、助役がゴム製の雨合羽と懐中電灯を持って川を見に行った様子をよく覚えています」という。
東海道新幹線の鳥飼車両基地は、新大阪駅から京都駅側へ約9キロ地点に位置する。所在地は大阪府摂津市。最寄り駅は大阪モノレールの摂津駅または南摂津駅だ。大阪モノレールの車窓からは鳥飼車両基地のほぼ全容が見渡せる。
この土地は北西の安威川、南東の淀川に挟まれており、ほぼ安威川に接する形で大阪貨物ターミナルと鳥飼車両基地が並ぶ。もともと新幹線用の基地として土地を確保し、1964年に開業した。貨物ターミナルは在来線の貨物駅として82年に開業。新幹線の貨物輸送のために在来線の貨物ターミナルと連絡する構想があったけれども実現しなかった。
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