新幹線を水没から救え――1967年7月豪雨「伝説の戦い」が伝える教訓:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
台風19号で被災した北陸新幹線は、多くの職員の復旧作業により全線直通運転を再開した。今回の被害は誰にも予測できなかった。しかし、過去には新幹線車両を待避させて水害から守った事例がある。「1967年鳥飼車両基地の伝説」だ。経験に学ぶことが必要ではないか。
1967年7月豪雨、大阪運転所鳥飼車両基地で何が起きたか
当時の様子を記した書籍がある。『新幹線安全神話はこうしてつくられた』(日刊工業新聞社、2006年)、『東海道新幹線 安全への道程』(鉄道ジャーナル社、2014年)。著者はどちらも齋藤雅男氏。当時の国鉄東海道新幹線支社運転車両部長だ。そしてもう1冊、A氏からは「大阪車両所30周年記念誌」をご提供いただいた。これらの資料をもとに、当時の様子を追った。
大阪近郊で広大な車両基地を確保できた理由が「湿地帯」。淀川の遊水池として残されていた土地だ。隣接する安威川は天井川といって、地面より川の水面のほうが高い。大雨が降れば車両基地に水が大量に流れこむ。そこで河川の改修計画が進んでいた。
一方、毎年6月に車両退避訓練を実施していた。これは鳥飼車両基地(大阪運転所・大阪保線所)だけではなく、東京総合指令所、新大阪駅、京都駅、大阪電気所が一体となり、列車課長の指揮で行われた。
しかし、皮肉なことに、河川改修前に大雨が降った。後に「昭和42年7月豪雨」と記録される。死者351人、行方不明者18人、負傷者618人、住家全壊901棟、半壊1365棟、床上浸水5万1353棟、床下浸水25万92棟などの大水害だ。
この年は台風が多かった。7月2日、マリアナ諸島の西で台風7号が発生。8日までに熱帯低気圧となったものの、五島列島付近まで到達した。一方、台風8号は九州の南に到達。この2つが梅雨前線を刺激して、8日ごろから西日本は大雨となり、大雨警報が発令された。大阪市北部に300ミリの予測だ。大阪保線所が監視体制に入った。
関連記事
- 水没した北陸新幹線 「代替不可」の理由と「車両共通化」の真実
台風19号の影響で北陸新幹線の車両が水没した。専用仕様のため、他の車両が代わりに走ることはできない。なぜJR東日本は新幹線車両を共通化していないのか。一方で、北陸・上越新幹線の車両共通化に向けた取り組みは始まっている。 - 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。 - 新幹線台車亀裂、川崎重工だけの過失だろうか
山陽新幹線で異臭を発した「のぞみ34号」について、東海道新幹線名古屋駅で台車に傷が見つかった。JR西日本の危機認識、川崎重工の製造工程のミス、そして、日本車輌製台車からも傷が見つかった。それぞれ改善すべき問題があるけれども、もう1つ重大な問題が見過ごされている。「納品検査」だ。 - 着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。 - こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。 - 漫画『カレチ』『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』が描く、国鉄マンの仕事と人生
国鉄末期の旅客専務車掌を主人公に、当時の鉄道風景と鉄道員の人情を描いた漫画『カレチ』。その作者の池田邦彦氏に、鉄道員という仕事について話を聞いた。 - JR東日本が歩んだ「鉄道復権の30年」 次なる変革の“武器”とは?
「鉄道の再生・復権は達成した」と宣言したJR東日本。次のビジョンとして、生活サービス事業に注力する「変革2027」を発表した。鉄道需要の縮小を背景に、Suicaを核とした多角的なビジネスを展開していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.