「WAGYUMAFIA」 代表・浜田寿人が明かす“挫折からの復活劇”――そして「世界一」への果てしない挑戦:浜田寿人の肖像【中編】(5/5 ページ)
“和牛輸出王”浜田寿人がたどってきた道のりから、最高級の和牛ブランドを世界に広めているWAGYUMAFIAのビジネスモデルに迫る――。設立からわずか3年で急成長を続けるWAGYUMAFIAは、国内では堀江の事業というイメージが強いかもしれない。だが、実質的にトータルプロデュースと海外戦略を担当しているのは浜田だ。中編では共同設立者の“ホリエモン”こと堀江貴文との再会と、WAGYUMAFIAのブランディングの秘密に迫る。
起死回生か 再びレストランをオープン
浜田は「空」のイベントをきっかけに、会社名をVIVA JAPANからWAGYUMAFIAに変更した。しかし、VIVA JAPANに関係していた人たちからは、世界ツアーを始めた浜田に対して「会社は大丈夫なのか」と不安視する声が上がっていた。
「空」のイベントの直後、浜田のもとにPR会社「ベクトル」社長の西江肇司から電話がかかってきた。その内容は、このままではWAGYUMAFIAはうまくいかないので、和牛でレストランを開いた方がいいというものだった。ちょうどこのころ「串カツ田中」や「いきなりステーキ」などが急成長を遂げていた。しかし浜田は「嫌です」といったん断ったという。
「西江さんからは絶対にやったほうがいいと言われましたが、僕はカフェグルーヴでフレンチレストランを経営して、全く儲からずに大変だった実体験があるので、やりたいとは思いませんでした。まだ資金に余裕もなかったし、レストランを経営していた他の役員からは『自分たちも大変だし、浜ちゃんも大変な思いをしただろう。また素人考えでレストランをやってもうまくいかない。輸出の仕組みを広げた方がいい』と言われていましたから。
それでも西江さんからは強く説得されました。ある日、西江さんから電話がかかってきて、『俺もPR会社を作るときに、先輩からは素人にPR会社ができるわけがないと反対された。でも今は日本一のPR会社になっている。俺だって焼肉屋の1軒くらいできるよ』と、2時間説得されたんです。そして『お前と付き合ってきた俺の半年を返せ』と言われたのが響きました。
西江さんは僕が持っているクリエイティブプロデュース能力を信じてくれました。西江さんが強く背中を押してくれたおかげで、店舗を作ることを決めたようなものです。今考えれば、西江さんは本当に僕の恩人ですし、心から感謝しています。ただ、当初は2店舗同時に出すようにと言われていましたが、1店舗に集中する形でスタートすることにしました」
一方の堀江は、飲食店に協力する気はなかった。本当においしい店が探せるグルメサービスの「テリヤキ」をプロデュースをしていたこともあり、自身の店を持つことによって中立性を維持できなくなることや、レピュテーション・マネジメント的に「ホリエモンの店が……」と言われることも嫌がったそうだ。開業資金を募ったクラウドファンディングには、わざわざ「堀江貴文はWAGYUMAFIAの事業には関係ありません」と書かれていた。
店舗には東京・赤坂の雑居ビルを借りた。最初は焼肉の店舗にするつもりだったが、テナントの致命的な電気容量不足のために焼肉の店舗にするのは難しいことが発覚した。そこで考えたのが、高級肉割烹のWAGYUMAFIAだった。京都で堀江と実施した最初のポップアップでの和牛割烹料理を、新たな店舗で再現しようとしたのだ。参加してくれたのは、フードトラックにも一緒に立ってくれた和牛卸先の焼肉シェフ永山悟志だった。
この構想にはスタッフからもポジティブな意見が出て、16年6月にプレオープン。9月にグランドオープンした。しかし、国内の客にはなかなか受け入れられなかった。オープン当初は、客がほとんど来なかったのだ。ここから唯一無二のブランドWAGYUMAFIAの快進撃が始まることになる。(後編に続く)
WM BY WAGYUMAFIAでは月2、3回ほどポップアップが開催される。2019年に業界の話題となった世界一のレストラン「エルブジ」を手掛けたアルベルト・アドリアとのコラボレーションは、WAGYUMAFIA HONG KONGでも開催され、世界15都市から客が殺到した
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/
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