90年前にMaaSの思想があった! 富山に根付く「どこからでも市街地へ」の精神:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
2020年3月、富山市内の2つの路面電車が接続し、相互直通運転を開始する。さらに2社が合併することで、運賃は実質値下げとなる。この“英断”から富山の公共交通の歴史を探ると、90年前に生まれた「一県一市街化」構想が、現代の「MaaS」に通じることが分かる。
MaaSと「一県一市街化」に共通するもの
現在、MaaSという概念が注目されている。マイカーに頼らずとも意のままに移動できるよう、公共交通機関をリンクさせようという考え方だ。ICTを活用し、情報提供や決済も手元の携帯端末で可能とし、移動情報のビッグデータを交通政策に反映させる。
その概念に「一県一市街化」との共通点を見いだせないか。もちろん当時はICTなんて便利な道具はなかった。しかし、自動車が普及していない状況下で、いかに人々が意のままに移動できるか。その考え方はMaaSに通じると思う。
富山地方鉄道と富山ライトレールの合併で、ICカード乗車券は富山地方鉄道の「えこまいか」に統合するようだ。富山ライトレールの「パスカ」も今まで通り使用できる。パスカ定期券も継続使用できるけれども、更新の時にえこまいか定期券に切り替えていくという。
また、現在は「交通系ICカード全国相互利用サービス」に対応していないため、「Suica」などで富山地方鉄道を利用できない。この問題については、JR西日本が2021年春に向けて、「ICOCA」の地域交通事業者向けの車載器、システムを開発しており、富山県でも採用されるだろう。
富山県に受け継がれていく「一県一市街化」は、MaaSのICTが加わることで、さらに理想に近づいていく。富山ライトレールが地方鉄道活性化の手本となったように、“富山版MaaS”の誕生がMaaS普及の手本になるかもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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