東大研究者が一本釣り漁師に転身 衰退著しい漁業を盛り上げるブルーツーリズムとは:地域ビジネス、ここがカギ(3/4 ページ)
東大大学院の研究者から転身した漁師、銭本慧さん。長崎県の対馬で会社を立ち上げ、鮮魚を東京のレストランなどに直販する。日本の水産業の衰退を肌で感じ、“資源を守る”漁業を実践。将来的には漁業を核にした観光産業、ブルーツーリズムによる活性化を描く。
漁獲量は最盛期の3分の1 衰退する水産業
多くの顧客に支えられながら事業を続けている銭本さんが常に心掛けていることがある。それは「魚をとりすぎない」ということだ。
日本の漁業は長年、職人肌の漁師が互いに競い合う「早い者勝ち方式」が主流だった。しかし銭本さんは、他国のように、資源管理の観点から漁獲制限を強める必要があると考えている。
研究の傍ら、衰退傾向にある日本の水産業が気になっていたことから、資源管理型漁業の実現に向けて、(1)漁獲効率が低い一本釣りを心掛ける(網を使わない)、(2)血抜きや神経締めなど鮮度を維持する処理を1匹ずつ行い、高付加価値化する、(3)漁業だけでなく、それを支える物流など周辺産業の維持にも取り組み、小さくても強い地域経済エコシステムを構築する――といった目標を掲げ、実践している。
水産庁によると、日本の漁獲量は最盛期の1984年の約3分の1、年間430万トンにまで落ち込んでいる。漁業者の高齢化や、乱獲による資源枯渇が主な原因という。ただ、海外に目を転じれば、漁業は成長産業だ。漁獲量や養殖業生産量は右肩上がりに増えていて、中国などの台頭も著しい。日本政府もようやく重い腰を上げた。2018年、70年ぶりに漁業法を改正し、国際水準の漁獲規制に踏み出した。
改正法には、法律に基づき漁獲上限を定める漁獲可能量(TAC)制度を漁業法に統合する規定が盛り込まれた。銭本さんは「法改正で資源管理の視点が入ったのは良いことだと思う」と評価する。科学的な根拠に基づいて適切な漁獲可能量を決められるか、そして、そのような魚種を増やせるか、という点に注目していると説明し、「決められた漁獲量を漁業現場が守りつつ、安定した収入を確保できる体制をどのように構築するかが課題だ」と指摘した。
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