東大研究者が一本釣り漁師に転身 衰退著しい漁業を盛り上げるブルーツーリズムとは:地域ビジネス、ここがカギ(4/4 ページ)
東大大学院の研究者から転身した漁師、銭本慧さん。長崎県の対馬で会社を立ち上げ、鮮魚を東京のレストランなどに直販する。日本の水産業の衰退を肌で感じ、“資源を守る”漁業を実践。将来的には漁業を核にした観光産業、ブルーツーリズムによる活性化を描く。
漁業を中核にした観光客誘致へ
将来的には漁業に加え、民泊も手掛けることを検討している。漁業の合間に仕事をすることで、収入の増加と消費者の理解を深める狙いがある。島内への観光客の呼び込みにもつながるため、漁業集落を抱える地域全体にとってもプラスとなる。
国内各地ではさまざまな地域活性化の取り組みが行われ、不調に終わったケースも多々ある。銭本さんは「自分たちの取り組みは少しずつ認知され、インターンシップや視察、体験のニーズが増えてきている」と、事業の滑り出しが順調であることを強調した。現在は、訪れた人たちに周囲の民泊に宿泊してもらっているが、地域に宿泊施設が少なく、対応できないこともある。「ゲストハウスを設けるなどして受け入れ態勢を整えたい」と漁業を中核にした観光客誘致の青写真を描く。
対馬北部には濃紺の豊かな漁場が広がり、魚種も抱負だ。その自然環境を体験してもらうための手段として、船釣りは最適な選択肢の一つと考えている。漁業に加えて、血抜きや神経抜きといった鮮度保持の手法、魚のおろし方などの講習も体験メニューにすることで、来島客を飽きさせないブルーツーリズムが展開できそうだ。
「こうした体験を通して、『持続可能な海との関係づくり』を感じてもらえるようにしたい」。銭本さんの夢は大きく広がる。
著者プロフィール
甲斐誠(かい・まこと)
1980年、東京都生まれ。現役の記者として、官公庁や地域活性化、文化芸術関連をテーマに取材、執筆を重ねている。中部・九州地方での勤務経験あり。
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