大戸屋の赤字転落、原因は「安すぎるから」?:専門家のイロメガネ(3/7 ページ)
定食チェーンを運営する大戸屋HD(以下、大戸屋)が赤字に転落した。2019年9月期の中間決算では、上場来初の営業赤字として大きく話題に。特に値上げによる客数の減少が赤字の原因と指摘されている。しかし赤字転落の本当の原因は、値上げが足りない事にある。つまり高いからではなく「安いから」赤字になっているということだ。
提供が遅い大戸屋
筆者が大戸屋に行かなくなってしまった理由も提供の遅さだ。よく通っていたころと比べて極端に遅くなったことに気づき、足が遠のいた。大戸屋に行かなくなった理由として同じ理由を挙げる人は多い。
先日大戸屋で食事をした際には、客の入りは半数以下と空いていたが、提供にかかった時間は15分ほどだ。牛丼チェーンと比べれば極端に遅い。客が不満を感じるかどうかは別にしても、売り上げには大きなマイナスとなる。
大戸屋が赤字に転落した理由として、「値上げで客足が遠のいたから」と分析されていることは多い。しかし牛丼チェーンと比べて提供に何倍も時間がかかる、つまり極端に低い回転率で現在の客単価は安過ぎる。もっと値段を高くしなければ、客数が増えても利益率は低いままだ。それが1〜2%程度の低い利益率から赤字転落と、数字にハッキリ表れている。
筆者の事務所近くの牛丼チェーン・松屋は、昨年改装工事で一時閉店した。新装開店後は食券を買って店員に渡す従来の仕組みから、食券を買っただけでキッチンにオーダーが伝わり、料理が完成したら自ら取りに行くセルフオーダー方式へと切り替わった。水やお茶も自動給湯器が設置された。この変更で店員の動きは原則としてカウンター内に限定され、オペレーションは劇的に短縮されたことが客の目線から見ていても分かった。
大戸屋の既存店売上高は、上半期で前年比5%の減少。客単価は4月に行われた値上げで1.6%上昇する一方、来客数は6.8%の減少と大きく減らしている。値上げした状態で元の客数に回復すれば以前より高い利益を見込めるが、回転率の低さはキャパシティの低さでもある。つまり受け入れ可能な客数に制限がある。キャパシティが低ければ特にランチやディナーのピークタイムには満席で客を逃す機会ロスが多数発生する。利益率を改善させる際に回転率の低さがボトルネックとなることは間違いない。
滞在時間も長い大戸屋
大戸屋は提供時間に加えて客の滞在時間も長い。ラーメン店も牛丼チェーンもご飯をゆっくり食べる場所とは思われていないが、大戸屋はゆっくりと食べて落ち着く場所であると認識されている。
店内のインテリアなども含めて、大戸屋はゆっくり食事ができる雰囲気を意図的に作っているのは間違いない。ドリンクバーを設置しているお店もあり、さらに滞在時間を長引かせている。大戸屋には回転率を引き上げるという発想がまったく無い。
落ち着いた雰囲気は本来集客でプラスになるはずだが、相対的に低価格であることを考えれば余計に回転率を落として売り上げの低下を招いている。食べ終えたら帰る雰囲気を作ることも、回転率を上げる際に必須だといえる。
低価格の飲食チェーンが一人で来店しやすいカウンターを多数設置している理由は、当然のことながら一人客を歓迎していることを示している。複数で来店すればしゃべりながら食事をするので完食まで時間がかかる。テーブル席が多ければ4人掛けの席に3人や2人で座るケースが発生し、実質的な席数を減らしてしまう。筆者が訪れた大戸屋は41席で、そのうちカウンターはわずか5席だ。一人客が多数訪れればその分だけ座席の効率は悪化する。
都内でディナータイムに、客単価1000円以下でゆっくりご飯を食べられる場所はあるか? と考えると、ファミレスや大戸屋以外にそのような業態は他にほとんどない。そしてファミレスはほとんどのお店がセントラルキッチン方式で、店舗調理を行う大戸屋と根本的に営業スタイルが異なる。お店の立場から見ると、丁寧に作った料理を1000円以下で提供するお店に長時間居座られたら、とても経営は立ち行かないということだ。
大戸屋が復活するには回転率を上げるか客単価を上げるか、どちらかが必要になる。しかし客単価は度重なる値上げで高いと思われている状況で、これ以上の引き上げは難しいだろう。回転率も店内調理にこだわるなら難しく、ゆっくり食べる場所という客の意識もそう簡単には変わりそうにない。このように考えると大戸屋の復活は相当に難しいことが分かる。
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