なぜ「ビーフン」に成長の余地があるのか 最大手「ケンミン食品」が狙う空白市場:長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/5 ページ)
ビーフン最大手のケンミン食品。2016年には年間約1000万食だった売り上げは、17年以降は約1500万食へと1.5倍に増えた。どのような成長戦略を描いているのか。
外食への普及が課題
外食への普及が進んでいないのも、ケンミン食品の大きな課題だ。価格的に優位にある中国製品などに、どうしても押されてしまうのだという。そこで、同社では自ら外食に進出し、ビーフンやビーフンに合う中華料理、台湾料理の発信に努めている。
1985年に日本三大中華街の1つ、神戸・南京町にビーフンと点心の専門店「YUNYUN」をオープン。月間10万個を販売する、焼小籠包の人気店となっている。
19年9月には、大阪の大丸心斎橋店本館地下2階のフードホールに、2号店を出店した。
また、神戸・元町の本社1階には中国の上級認定資格「特級厨師」の資格を持つ料理長が指揮する「健民ダイニング」がオープンしており、本格的な中華が良好なコストパフォーマンスで楽しめると、人気店になっている。16年には、東京・六本木に姉妹店「健民ダイニング六本木店」がオープンし、四川料理を専門とするシェフを擁して本店に負けないクオリティだと評価が高い。
ケンミン食品の飲食店ではお湯で戻す「ケンミンビーフン」を使用しているが、実際に食べた顧客からは「家でつくるビーフンと全然違う。どうすればお店の味に近づけられるのか」と多くの質問が寄せられた。主たる原因に火力の違いが挙げられるが、同社の社員が数年間悪戦苦闘した結果、家庭でもほぼお店に近い味が出せるレシピが完成した。
ケンミンビーフンは炭水化物だが、食後の血糖値の上昇が緩やかな低GI(グライセミック・インデックス)食品であり、肥満になりにくい性質を持っている。また「ケンミン焼ビーフン」シリーズのほかに、同社製品の多くが低GIの傾向を持っており、麺を二度蒸しする製法によりその性質を獲得するのではないかといわれている。
同社では、低GI食品ということをアピールできて、プロテニスのデニス・ジョコビッチ選手が提唱したグルテンフリー健康法が浸透していることを背景に、19年から米国への輸出を開始した。ニューヨークなどでは、フォーなど米の麺の店が流行してきているので、チャンスがあるのではないだろうか。
えんどうタンパクを配合した高タンパク麺も、16年から発売しており、健康志向の高まりに対応した商品ラインアップを充実させてきている。
「ビーフンは年間1億食の市場といわれますが、日本国民が1年に1食のビーフンを食べているに過ぎません。それも何食も食べている人がいる一方、まだビーフンを知らない人も多いのです。これを1年に2食にするだけで、売り上げは倍増します」(堂本輝明東京支店長)。
確かに健康志向の高まりは、ケンミン食品にとって追い風で、売り上げを2倍にするのは十分に可能と見受けられた。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
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