2019年デビューの良かったクルマ(後編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
恒例の新年企画は、1日と2日の連続で2019年に乗って良かったクルマについてだ。1日の前編では、デビュー順にトヨタRAV4、マツダMAZDA3、ダイハツのタントについて取り上げた。後編は、カローラとCX-30である。
それはフォルクスワーゲン・ゴルフが70年代に打ち立てた、徹底した合理主義による高効率パッケージとは違う土俵だ。ゴルフは、エンジンとトランスミッションを横に並べるジアコーサ型配置に基づき、コンポーネンツをエンジンルームに凝縮して、バルクヘッド以降のスペースを限りなく合理的に使い切ることで高いスペースユーティリティを持つことに成功した。
立てたAピラーと、真っ直ぐに後方に伸びるルーフラインに、垂直に切り立ったテールゲートを合わせれば、どうしてもライトバンのそれになる。プロボックスがその典型だ。
ゴルフをデザインしたジョルジェット・ジウジアーロは、スペース効率が落ちることを承知でリヤウィンドーを強く傾け、ルーフを短く見せるとともに、リヤ部分の軽快感を演出して、バンとは違うシルエットを作り出した。むろんガラスを傾けた分荷室は減るが、一般的に乗用車は、商用車と違ってリヤウインドーの視界を遮るほど高く荷物を積まない。それ以前のレイアウトからすれば圧倒的にスペースユーティリティが高かった。
このパッケージが余りにも合理的であったが故に、以後Cセグメントの多くのクルマがゴルフと同じ形に呪縛されていったのである。例えばマツダでいえば、FFになった最初のファミリア(BD型・5代目)がまさにそうだ。以後6代目、7代目とゴルフのフォロアーに甘んじ、8代目、BH型のファミリア・ネオで呪縛から逃れたが、商業的には黒歴史に近い。しかもそのデザインを担当したのは、のちにルノーのデザインに革命を起こしたパトリック・ル・ケモンだ。ゴルフのフォロアーに甘んじることなく、かつ商業的に成功させるのは本当に大変なのだ。
だからCセグメントの歴史は、ゴルフがもたらした合理性デザインの呪縛との戦いでもあった。その結果として、MAZDA3のデザインとCX-30のデザインはでき上がっている。もしあなたがモアスペースを望むのであれば、ゴルフかプロボックスを選ぶべきだと筆者がいうのはそういう意味である。別に極論でいっているわけではなく、そういうバランスポイントに素直に作られるクルマを選んだ方がストレスは少ないだろうということだ。
しかし、自動車メーカーがモノ作り企業である限り、ど定番のデザインに安住する決断はリスキーでもある。新しいバランスポイントを探し、そこへ向けて創造力を注ぎ込むべきだと筆者は思う。ゴルフの示した解があまりにも普遍的であるが故に、そこから離れればどうしてもユーティリティで負ける。CX-30をそういう文脈の中でみれば、筆者からはかなり健闘しているように見えるのだ。
ということで19年に乗って良かったクルマについての解釈論を立ててみた。もっとストレートなインプレッションを期待していた方には申し訳ないが、インプレッションは過去記事でお楽しみいただきたい。
カローラについてはこちら、CX-30についてはこちらとこちら。
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