2020年の中国自動車マーケット(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
世界の自動車販売台数の3分の1を占める中国で変調が起きている。中国マーケットで起きていることをちゃんと押さえることが第一。次いでその原因だ。そしてそれらが20年代の自動車産業にどんな影響を与えそうなのかを考察してみよう。
中国式資本主義
背景としては中国の著しい経済発展がある。バブル崩壊以降、日本は船頭のいない舟のような状態が長く続いた。変わらなければならないが、何をどう変革するか誰も決められない。それが日本だけかというと、実は米国も欧州も似たようなもので、何を決めるにも、賛成と反対のそれぞれにイデオロギーが結びつき、誰もが身動きが取れなくなっていた。何も決められない。そういう世界の中でひとり中国だけが、次々と政治主導でリスクテイクをして、強力なトップダウンで改革を進めてきた。
決められない国と、決められる国。少なくともリーマンショック以降は決められる中国が圧勝してきた。独裁体制があるからこそ、異論を封じ込めて方向性を指し示すことができる。そういうやり方は成長速度を速める。
例えば、エレクトロニクスや自動車といった産業を重点的に育てるという目標を定めて、ヒト・モノ・カネをそこに重点的に投下する。
そうした中で、中国は二重構造をうまく利用した。例えば世界銀行は05年以来、一人当たりGDP1.25ドル/1日を国際貧困ラインに定めてきた(15年に1.90ドルに変更)。中国は国家としてはGDP世界第2位でありながら、人口が多く、世界銀行の定めるこの貧困国規定を利用することができ、極めて低利で融資を受けることができる。
そうやって「貧困国」としての立場で低利融資を受ける一方で、経済大国としての立場で、中国は第2の世界銀行ともいえるアジアインフラ投資銀行(AIIB)を主導的に立ち上げ、世界の貧困国に融資を行い、融資の返済が滞ると、租借という名目で土地を差し押さえて、他国領土に軍事基地建設を押し進めた。
AIIBの盟主である中国に、世界銀行が貸し付ける原資の提供元一位は米国で二位は日本である。しかもそれは国民の税金だ。米国のドナルド・トランプ大統領はこれに激しい抗議を突きつけている。
あるいは、中国は途上国としての立場もうまく行使している。自国産業の保護政策は、多くの途上国で行われている。戦後の日本もそうだった。しかし、今の中国が途上国であるという認識はどうなのか? 少なくとも米国に「太平洋を分割しよう」と持ちかけるような国が途上国というのは強い違和感を覚えざるを得ない。
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