2020年の中国自動車マーケット(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
世界の自動車販売台数の3分の1を占める中国で変調が起きている。中国マーケットで起きていることをちゃんと押さえることが第一。次いでその原因だ。そしてそれらが20年代の自動車産業にどんな影響を与えそうなのかを考察してみよう。
途上国の権利とは何か? 例えば資本規制である。自動車の世界でいえば、中国でクルマを売ろうとすれば、原則として禁輸状態なので、現地で生産するしかない。しかし中国でクルマを生産するには、現地法人を設立しなくてはならず、しかも現地資本と提携し、株式の51%を現地側に持たせなくてはならない(22年に撤廃を予定)。
51%を現地資本が持つということは、企業経営権を現地資本に握られるということであり、当然技術情報は全て丸裸にされる。さらに、現地の法人には例外なく共産党組織が作られ、党の指導が行われる。つまり日本企業が中国でクルマを売りたいということは、提携先のみならず中国政府に技術移転を認めることと同義になる。当然これは自動車だけではなく、通信やエレクトロニクスにも当てはまる。
さらに中国政府が、そうした重点産業への巨額の補助金を交付していることも大きな問題になっている。ファーウェイが世界各国で5G通信機器のシステムから閉め出されたのも同じ根っこの話だ。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によれば、ファーウェイには実に8兆円という巨額の政府支援が行われているという。ちなみに日本の国家予算が100兆円、年間の税収が60兆円というあたりから考えてもどれだけ巨額かは分かると思う。
根源的な話として、これだけの巨額な補助金が交付されれば、そこから生み出される製品の価格はフェアな競争価格とはいえないし、政府がそれだけ巨額な補助金をなぜ一企業に交付するのかという話にもなる。そこでクローズアップされるのはファーウェイの創業者「任正非」氏の人民解放軍出身という経歴である。
世界は、5Gのインターネット網から、人民解放軍が情報を自由に盗むのではないかという疑いを強めており、それはすなわち各国の安全保障の問題に直結する。この疑いがどの程度濃厚なのかを確認する術を筆者は持たないが、米国を筆頭にEU各国や日本でも、ファーウェイ製の機器をインターネット網のインフラに使うことが禁じられている。逆にいえば禁じなければそれらを独占してしまうほどに低価格でシステムを提供しており、その低価格はつまるところ補助金につながっているというわけだ。
結局、中国の資本主義には、フェアであろうとする意思や矜持(きょうじ)がない。あるのはただゲームとしての資本主義で勝者になることだけだ。それが、トウ(登におおざと)小平が唱えた現実主義的な改革開放政策のなれの果てだともいえる。トウ小平がそれを唱えた頃は、とにもかくにも経済を立て直すという意味では正しかったかもしれないが、以来、江沢民、胡錦濤と続く中でその目的は変容していった。
一例を挙げれば、江沢民政権下の01年、WTO加盟時に、中国政府は技術移転の禁止を承認していたはずである。そうでなければWTOに加盟できないからだ。にもかかわらず以後約20年に渡ってうやむやにしてきており、先に記した通り、その20年間で世界の技術をキャッチアップしてきた。いやもっと厳しい言い方をすれば盗み続けてきたのである。
こうした現実を前に、米国は中国に対して、貿易慣行の是正と、アンフェアな補助金、知財のフェアな取り扱いを突きつけている。それこそが米中貿易戦争の真の姿だといえる。さて、それはどうなっていくのだろうか?
(明日の後編に続く)
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