5G元年は結局「から騒ぎ」に終わる? 新技術が日本を変えられない真の理由:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
「日本の未来を開く」などとうたわれる5G。しかしユーザー・メーカー双方に大したメリットをもたらさない可能性も。5Gでどう経済効果を生み出せるかを問う。
産業構造の変化起こせるかは「国民の知恵次第」
利用者にとっても大きなメリットが感じられず、通信機器メーカーにとっても大きなビジネスにならないのだとすると、あれだけ「5G、5G」と大騒ぎしておいて、一体、誰がトクするのだろうかという疑問がわき上がってくる。
通信会社は5Gのサービス開始に伴って、大々的なキャンペーンを行うだろう。これをきっかけにサービス価格の安い、古いサービスから新サービスに乗り換える利用者が増えれば、通信会社の業績には多少のメリットになるかもしれない。だが、社会全体では、喧伝(けんでん)されている程の効果はないと思った方がよさそうである。
米国ではすでに一部地域で5Gのサービスが本格的に始まっているが、これは光ファイバーに代表される固定通信サービスが貧弱な地域に高速接続を提供することが主目的なので、今のところ、5Gならではというサービスが立ち上がっているわけではない。しかも米国の場合、いまだに3Gを使っている人も多く、日本のように高速通信で大騒ぎするということはあまりないのが実情だ。
だが、5Gにまったくメリットがないのかというとそうではない。むしろ使い方によっては大きな経済効果をもたらす可能性もある。その理由は、5Gの普及によってIoT(モノのインターネット)が一気に現実化し、産業構造の変化が期待できるからである。
5Gは通信速度が速いだけでなく、遅延が少なく、多数の機器を同時に接続できるという特長がある。近い将来、ほぼ全ての自動車はネットに接続され、ネットを通じて各種サービスが提供されることになるが、5Gはこうした新サービスの基礎インフラとなる。
ビルや工場の機器類もネットに接続することでリアルタイム監視が可能となり、メンテナンスコストの大幅削減が期待されているが、どうやってネットに接続するのかが最大の課題であった。5Gであれば、遅延がなく、しかも大量の端末が同時にネットに接続できるので、産業用機器のネット接続にはうってつけである。
こうした通信インフラが整えば、それをベースにした新しいサービスや付加価値が生まれる可能性があり、5Gはいわば、縁の下の力持ちということになる。だが逆にいうと、こうした新ビジネスが誕生しなければ、ただ、通信規格が変わるだけで、何の変化も起きないという事態にもなりかねない。
日本ではライドシェアなど、新しいサービスが出てくると、基本的に全否定され、禁止されてしまうケースが多いが、5Gを使った新サービスにも同じように禁止ばかりしていては、3兆円も投資した意味はなくなってしまうだろう。ネットが道具である以上、メリットを受けられるのかは国民の知恵次第ということである。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
関連記事
- アマゾン「置き配」の衝撃 「お客様が神様で無くなった世界」で起こり得る“格差問題”
配達員が荷物をユーザーの指定場所に置く「置き配」。アマゾンジャパンが標準配達方法にする実験を実施した。筆者はユーザー間で一種の「格差」が生じる可能性を指摘。 - モーターショーに女性コンパニオンは本当に必要か――「男性目線マーケティング」で露呈した矛盾
きらびやかな女性コンパニオンが目立った東京モーターショー。「男性に絞った」イメージ戦略は今なお有効なのか? 元ドライバーでもある女性ジャーナリストの筆者が斬る。 - 2020年「正社員の年収激減」の恐怖 賃下げの意外なターゲットとは
2020年から正社員サラリーマンの年収が激減する恐れ。ポイントは同一賃金同一労働の施行だ。意外なモノが「賃下げ」のターゲットになる可能性が。 - ホリエモン「お前が終わっている」発言に見る、日本経済が「本当に終わっている」理由
ネット上の「日本終わっている」にホリエモンが「お前が終わっている」と反論、発言は賛否を呼んでいる。筆者はここに、日本の賃金水準がもたらす本質的な問題を見いだす。 - アトムにナウシカ……マンガ・アニメ原画が海外で1枚3500万円の落札も――文化資料の流出どう防ぐ
海外で日本マンガ・アニメ原画が高額取引されるように。オークションで手塚治虫が1枚3500万円で落札の例も。日本文化の貴重な資料流出、どう防ぐか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.