マクドナルドとモスバーガー 「トマト」の使い方から見えた戦略の“決定的”な違いとは:飲食店を科学する(4/5 ページ)
ハンバーガー業界の2トップ「マクドナルド」と「モスバーガー」。原価率や広告宣伝費から戦略の違いが見えてきた。マクドナルドの圧倒的強さの秘密にも迫る。
原価以外から見えたモスの戦略
新鮮な国産野菜を多用するモスの戦略は、原価率以外の経営指標からも読み取れます。
ここで両社の「在庫回転日数」を見ていきます。在庫回転日数とは在庫が何日かかって回転(在庫を販売して現金化された)したのかを分析する指標です。具体的には「棚卸資産(在庫)÷1日の売上原価」で算出します。それでは両社の在庫回転日数を見ていきます。
マクドナルドの在庫回転日数は6.1日、つまり全店の6日分にあたる営業用の在庫を保有していることになります。一方でモスバーガーの在庫回転日数は2.6日です。
モスバーガーの在庫回転日数が短い点に関しては、鮮度が重視される新鮮な国産野菜などの原材料を多く使用している事にも起因しています。
一方、マクドナルドの在庫回転日数が長いのはなぜでしょうか。食材や備品等を世界各国から大量購入することで、原価を下げる戦略に起因しているといえます。ただ、こうした戦略は在庫の現金化が遅くなるため、キャッシュフローへの悪影響や為替変動リスクを伴います。つまり、資本力がある企業にしかできない戦略といえるでしょう。
余談ですが、スターバックスコーヒーの在庫回転日数は約23日間です。コーヒー豆という商材を扱っていることにも起因していますが、在庫回転日数はその会社のビジネスモデルを探る上で一つの指標となります。
グループ合計約1700店舗のモスバーガーに対して、全世界で3万7000店舗という圧倒的な数を誇るマクドナルドだからこそ、規模のメリットを生かした低原価率でのビジネス展開ができているといえます。
次は業界1位の圧倒的売上高を誇るマクドナルドのマーケティング戦略を分析していきます。
既存店売り上げが44カ月連続でプラス
マクドナルドのマーケティング戦略の特徴として、季節限定商品の販売強化が挙げられます。皆さんは何度も、以下のような商品を紹介するテレビCMを見たことがあるかと思います。
「グラコロバーガー」
「月見バーガー」
「チキンタツタ」
ここで皆さんにクイズです。マクドナルドは年間何アイテムの季節限定商品をリリースしているでしょうか? 18年1〜12月までのハンバーガー、デザート、ドリンク等の季節限定商品を集計してみると、なんと106アイテムもありました。ちなみに、17年度は115アイテムでした。このことから、マクドナルドが「年間100アイテム以上」の季節限定商品リリースを1つの指標としていることが予想されます。
こうした新商品を開発、リリースしていくには大きな労力を要します。さらにこうした季節限定商品を消費者に認知させるためには、テレビコマーシャルを含めたさまざまなPR戦略が必要となります。
ではもう1つクイズです。こうした季節商品のPRを含め、マクドナルドが年間どの程度の広告宣伝費をかけているかご存じですか?
18年12月期の決算資料で「広告宣伝費及び販売促進費」を確認すると、77億円(売り上げ対比2.8%)となっています。77億円というと、ハンバーガー業界で売り上げが4位のファーストキッチンの売上高にも匹敵するような金額です。
なお「広告宣伝費及び販売促進費」に関しては、18年度のみならず過去3年間を見ても、売り上げ構成比の2.6〜2.8%を支出しており、マクドナルドが継続的に一定のPR費用をかけていることが分かります。こうした多額のプロモーションを継続的に行っていくことで、圧倒的業界1位のシェアを獲得できているのです。
一方、モスバーガーに関してはマクドナルドのような多額のプロモーション費用は使えない代わりに「野菜たっぷり」「安心・安全」「国産野菜」という明確なブランドコンセプトを前面に打ち出すことで、一定の根強いファン層のリピート需要を獲得しているといえます。
一方で、いくらマーケティングを強めても、店舗に人材がいなければ継続的に売り上げアップは実現できません。人材獲得は今はどの企業においても最も重要な経営課題です。次はマクドナルドとモスバーガーの人材不足への対応策を見ていきます。
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