報酬5億円でゴーンの暴走を放置した西川前社長の責任(中編):専門家のイロメガネ(2/5 ページ)
メディアでは一斉にゴーン批判の嵐が巻き起こったが、仮に暴走していたのであればそれをとめる役目を負うのは役員であり、その最高責任者は日産の代表取締役社長兼CEOの西川氏にほかならない。ゴーン氏が犯罪を行って逮捕・起訴されたのであれば、西川氏もセットで逮捕されるべきで、西川氏が逮捕されないのであればゴーン氏の逮捕もあり得ないはずだ。
ゴーン氏の元で頭角を現した西川氏
ゴーン氏が日産に着任した際に一管理職でしかなかった西川氏は、05年には副社長、11年には代表取締役副社長、そして17年には代表取締役社長兼CEOと、ゴーン氏の右腕として出世に出世を重ねて、日産のトップに立つことになる。
大株主のルノーの威光を背景に、ゴーン氏が無茶な行動を繰り返したことはおそらく事実なのだろう。多数報じられている公私混同ぶりは、とてもプロ経営者とは思えない酷さだ。
しかしゴーン氏に権力が集中していると認識しながらそれを止めることなく過ごしていたのなら、西川氏は役員として、そして代表取締役として責務を果たしているとは到底いえない。
ゴーン氏に文句を言ったらクビにされかねないんだから仕方ない、と思う人もいるかもしれないが、それは全く理由にならない。ゴーン氏が暴君として振る舞っていたことを思わせる報道は多数あるが、会社に損害を与える行動をしていたのならそれを止める責任が役員にはある。
進言をしたことで結果的に閑職に飛ばされようとクビになろうと、それが5億円という国内トップクラスの高額な報酬をもらって、株主の利益のために働く義務を法的に課せられた役員の責務ということになる(いわゆる忠実義務)。
5億円という西川氏の高額な報酬には、自身の利益よりも、株主の利益やコンプライアンス、ガバナンスを優先させるためのコストも含まれている。
社長退任後も取締役として日産に残っている西川氏は、社長・副社長の時代にゴーン氏の暴走を止めるためにどのような行動を起こしたのか? あるいは何もしなかったのか? そして行動を起こしたのであれば、なぜ止められなかったのか、なぜ検察が出てくる事態にまで発展したのか、株主に対して説明責任がある。当然、株主の中には年金資産の運用を通じて日産の株を保有している日本国民も含まれる。
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