ゴーン騒動に200億円も支出した日産の判断は正しいのか?(後編):専門家のイロメガネ(2/8 ページ)
ゴーン氏が逮捕され、西川廣人氏が不正な報酬授受で退任した後も、極めて疑問の残る支出が発生している。「ゴーン騒動」に日産が払ったコストだ。報道によれば、一連のトラブルに対応する費用は2億ドルにも上るという。
監視を辞めた直後にゴーン氏が逃亡したことから、結果的にこれが直接の原因、逃亡を知っていて助けたと弁護士が批判されているが、一つ抜けている視点がある。ゴーン氏の監視が果たして日産にとって必要な行動だったのか? ということだ。
日産側が行動監視していた背景には、東京地裁が付けた保釈条件では、ゴーン被告が外出先で事件関係者と会うことを制限できないなど、証拠隠滅防止の実効性の乏しさがあったとみられている。
ゴーン被告、監視中止当日に逃亡 日産手配の業者に告訴警告 2020/01/04 産経新聞
日産が自社を守るために監視をしていたという説明はもっともらしく聞こえるが、これは「自力救済」に当たらないのか。地裁の保釈条件では証拠隠滅される、日産に不利な事をされる可能性があるというなら、それは日産が自社で対応すべきことではない。
例えば空き巣に入られた被害者が泥棒を自分で探し、運よく探し当てて不在中に盗まれたモノを取り返すため泥棒の家に入り込んだ場合はどうなるか。奪い返した側も不法侵入で逮捕される可能性がある。
もちろんこれはケースバイケースということになるが、上記の記事では検察の「東京地検特捜部は、ゴーン被告が監視をやめさせて逃亡を図りやすくするため刑事告訴を悪用した疑いもあるとみて調べている」というコメントも紹介している。
日産はゴーン氏の逃亡を防ぐために監視していたわけではなく、弁護側もあくまで違法なつきまとい(軽犯罪法違反と探偵業法違反)について刑事告訴をすると警告していたとある。
刑事告訴を悪用など、検察のトンチンカンなコメントにはあきれるばかりだが、ここまでコメントするのであれば、検察は警備会社側に違法行為がなかったのか捜査をすべきだろう。
そして利害が対立する立場とはいえ、弁護士からこれだけ強く警告を受けた日産の判断は果たして正しいのか。適正な対応であれば警告を受けても辞める必要はなかった。そもそも訴訟で対立する相手を警備会社を雇って監視するなど、まともな対応とは到底思えない。それでも実行していたのならば、日産は法的なリスクを当然のことながら慎重に判断していたはずだ。それにも関わらず警告を受けただけで監視・尾行を辞めたことは極めて不可解だ。
果たしてゴーン氏の監視で発生した費用は適正なものだといえるのか。ゴーン氏と日産は真正面からケンカをしている状況であり、いまさらトラブルを避けるために監視を辞める、といった判断は不要だろう。ゴーン氏の監視を行うこと、警告を受けて辞めたこと、それぞれ誰がどのような経緯で判断し、実行したのか。これも会社の費用で行っている以上は株主に情報開示をする必要がある。
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