ゴーン騒動に200億円も支出した日産の判断は正しいのか?(後編):専門家のイロメガネ(3/8 ページ)
ゴーン氏が逮捕され、西川廣人氏が不正な報酬授受で退任した後も、極めて疑問の残る支出が発生している。「ゴーン騒動」に日産が払ったコストだ。報道によれば、一連のトラブルに対応する費用は2億ドルにも上るという。
5億円をもらって西川氏は何をやっていたのか?
西川氏は5億円もの報酬をもらって一体何をやっていたのか? と指摘したが、西川氏の問題はゴーン氏の暴走を見逃したことだけではない。
SARという株価に連動した報酬で、本来より多くの報酬を受け取ったことは疑惑でなく西川氏も認めている。結果的に取締役会による全員一致の決議で辞任要求を飲まされ、代表取締役社長兼CEOを辞任している。
ゴーン氏は「将来もらう予定の報酬を未記載」の罪で逮捕されたが、西川氏は実際に4700万円もの大金を多く受け取った(会見では返金すると説明)。第三者委員会は西川氏に不正の意図はなく事務的なミスとしているが、これは横領に当たらないのか。検察はゴーン氏と同様に、西川氏を逮捕・起訴しなくていいのか? ゴーン氏の弁護人はこれはダブルスタンダードで、西川氏と検察の間で闇取引があったのではないか。という疑念をコメントしている。
検察審査会では、有価証券報告書の虚偽記載について西川氏の不起訴は覆らなかった。理由として西川氏は記載されている以外、ゴーン氏に多額の退職金が約束されていると認識していたとは認められない、と報じられている。シンプルにいえば「西川氏はゴーン氏が隠していた退職金を知らなかった、だから罪はない」ということになる。
退職金の有無自体が争点になっていることは一旦別にしても、最高責任者であるにもかかわらず、虚偽記載が「知らなかった」で済むことになる。本来はその真逆で、株主から会社の管理を任された経営のプロとして「知らないこと自体が罪」となる。これは法的に課せられた義務、善管注意義務という。もしこれがまかり通るなら、今後は粉飾決算ですら「知らなければOK」という恐ろしい前例になる。
空港で緊急逮捕までされたゴーン氏と、社長辞任後も役員に留まり、知らなかったで許された西川氏。これをゴーン氏が不公平だと思わない方がおかしい。検察への不信と、西川氏と比べて極端な扱いの不公平さ……。西川氏が逮捕されていれば、ゴーン氏の逃亡はなかったと書いた通りだ。辞任会見でゴーン氏に「悔いてもらいたい」と強く語った西川氏は自身に悔いるべき点はなかったとでもいうのだろうか?
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