ゴーン騒動に200億円も支出した日産の判断は正しいのか?(後編):専門家のイロメガネ(4/8 ページ)
ゴーン氏が逮捕され、西川廣人氏が不正な報酬授受で退任した後も、極めて疑問の残る支出が発生している。「ゴーン騒動」に日産が払ったコストだ。報道によれば、一連のトラブルに対応する費用は2億ドルにも上るという。
なぜ検察は経営判断に介入するのか?
4回の逮捕のうち、4回目はいわゆる「オマーンルート」と呼ばれる疑惑だ。
オマーンの販売代理店に支払った販売奨励金の一部が、ゴーン氏が実質的に支配する投資会社を通じて還流したとされている。CEOリザーブと呼ばれるゴーン氏の権限で決められる予算から支払われたもので、なおかつ支払った相手もゴーン氏の友人だという。
もう1つの「サウジルート」と呼ばれる疑惑も、ゴーン氏の友人が取引相手だ。逮捕容疑となった投資リスクの付け替えがゴーン氏から日産へ、そして証券取引等監視委員会から問題視され、再度自身に付け替えた。
損が発生しなかったとはいえ無茶苦茶な取引だとすでに指摘したが、再度自身にリスクを付け替えた際、ゴーン氏の信用不足を補ってくれたサウジアラビアの友人に、CEOリザーブから報酬を支払ったという。
手短に説明したが、2つのルートの事実関係は複雑なだけではなく、裁判が行われていないことから不明な点も多い。ゴーン氏は、いずれも送金は業務上の支払いや報酬であって不正なものではない、還流はないし信用保証のお礼でもないと、主張が検察と真っ向から対立する。
さて、これは果たして犯罪になるのか。大前提としてゴーン氏が知人と取引をしたことが問題の発端であることは間違いない。ゴーン氏は株主から経営を任されて報酬を受け取る立場だ。したがって会社の取引によって自身が利益を得るような状況は利益相反を疑われる。
利益相反とは一方の利益がもう一方の損になってしまう状況を指す。上記2つのケースは複雑なため、シンプルな例で説明すると、ゴーン氏が日産とは全く別の自動車のパーツ会社を経営していたとする。この会社はゴーン氏が100%の株を保有していた場合、日産とこの会社が取引をすると利益相反となってしまう。日産がパーツを高値で仕入れればゴーン氏は得をするが日産は損をするからだ。
日産の利益のために経営すべきゴーン氏の立場として、このような取引は当然許されない。つまりゴーン氏が個人で所有する会社とは取引自体をしない事が一番すっきりする。取引をした時点で疑いを持たれてしまうからだ。
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