シリーズ600万部突破の大ベストセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』著者・岸見一郎が語る大ヒットの舞台裏――「はじめから世界進出を狙っていた」:『嫌われる勇気』著者の仕事術(前編)(4/4 ページ)
国内累計208万部、世界累計485万部の大ヒットを記録している『嫌われる勇気』。続編の『幸せになる勇気』との合計部数は世界で600万部を突破し、21世紀を代表するベストセラーになっている。実は当初から大ヒットを狙っており、海外で翻訳版を出版することも視野に入れていたという。共著者の1人で、哲学者の岸見一郎氏に、大ヒットの裏側を語ってもらった。
初版8000部から、世の中が変わった
――それにしても哲学の本が、ヒットを狙って、本当に売れるのはすごいですね。
初版は8000部でした。
――8000部だったのですか。いまから考えたら驚きですね。
今の出版事情を考えたら少ない部数では決してありません。一般的なことを言えば、出版社が類例や前例がない本にはリスクをおかしたくないのは当然です。同じような本が出ているかどうかと、その本がどれだけ売れているかを考えて、出版を検討するのが普通です。
ですが、当時日本では無名だったアドラーの思想を紹介する『嫌われる勇気』を世に出そうというダイヤモンド社さんの大英断があったからこそ、多くの読者の手に届くことになったのです。
ベストセラーやヒット商品の背景には「嫌われる勇気」があると思います。年長者が「そんな本が売れるわけがない」と言っても、若い人が怯まずに「これは絶対に売れます。大丈夫です」と言うやりとりがあって、ベストセラーが生まれているはずです。私たちの本について言えば、出版に反対する人はいなかったと聞いています。
――オリジナリティーがあるヒット商品は、周囲に反対されている中から生まれている気がしますね。
スティーブ・ジョブズは1984年にiPhoneの原型となる設計図とイラストを書いています。普通の会社なら彼が設計図を見せても「そんなものが売れるわけがない」と言われるでしょう。でも、Appleはそういう会社ではなかったので、彼のアイデアが次々と採用されて、ヒット商品を生み出しています。
――『嫌われる勇気』と『幸せになる勇気』の場合は、著者、編集者、ライターという3人のチームワークがよかったとも言えますか?
よかったです。リーダーは一番若い柿内さんです。あまり一般的な会社ではないことでしょうから、面白いですね。みんな対等ですから、言いたいことを言います。彼らは本当に私の言うことを聞かない(笑)。
――年齢でいうと、発売した2013年は岸見さんが50代、古賀さんが40代、柿内さんが30代ですね。
年齢は私が一番上でしたけど、2人と話していて、若くてこんなに才能があるのだと思ってワクワクしました。もしも私の言ったことを「はいはい」と聞くイエスパーソンたちだったら、つまらなかったでしょうね。1人でする仕事なら話は別ですけど、チームを組んでやる以上は、自分が思っていないことを言ってくれる人と仕事をするのが醍醐味(だいごみ)です。2人と仕事をするのは楽しかったです。
それに、若い人の方が、知性や感性が絶対に優れていると思います。私の講演会には、本を読んで理解されている方が来てくれますが、最近は小学生の姿も見かけます。読んだきっかけは、お父さんかお母さんの影響でしょう。でも、小学生が親以上に鋭い質問をします。そういう世代が育ちつつあるのです。『嫌われる勇気』がたくさんの人に届いたことで、世の中が変わりつつあると感じています。(後編に続く)
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/
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