「人材サービス」が“社会の敵”にならないために 運営側、企業側、求職者全てが知っておくべき基本事項:新連載・「人材サービス」が滅ぶ日は来るのか?(4/5 ページ)
2019年、就活サイトの内定辞退率問題で注目を集めた「人材サービス」だが、今その公益性が問われている。しかしながら、ひとくちに「人材サービス」といっても、その実態はなかなか分かりづらいのが現状だ。「人材サービスの公益的発展を考える会」を主催し、「人材サービス」に詳しい川上敬太郎氏が分かりやすく「そもそも」を解説する。
「ビジネス」であるがゆえの難しさ
1つは、求職者と求人企業それぞれのニーズが別々に存在し、双方のニーズを同時に満たす必要があることです。もちろん、双方がWin-Win(ウィン-ウィン:求職者も求人企業も勝ち。勝ちとは、ニーズが満たされること)で大満足ということであれば申し分ないですが、中にはどちらかが何らかの妥協をしているケースがありえます。
もう1つの理由は、そこに料金が発生することです。ほとんどの場合、サービスの利用料を支払うのは求人企業側で求職者側は無料です。しかし、サービス利用時に料金の発生が伴うことで、そこにビジネスが成立します。すると、求職者と求人企業それぞれのニーズを同時に満たすことだけでなく、ビジネスとしての成功という目的も加わります。
その結果、求職者と求人企業それぞれのニーズを同時に満たすという需給調整機能としての目的が、ビジネスの成功という目的によって侵害されてしまう懸念の余地が生まれます。
本来は、求職者と求人企業の間にWin‐Winを成立させるという目的があるにもかかわらず、Win-Lose(ウィン-ルーズ:求職者は勝ち、求人企業は負け)やLose‐Win(ルーズ-ウィン:求職者は負け、求人企業は勝ち)でも良いので、ビジネスを成立させることを優先するという事業者が出てこないとも限りません。
最悪のケースとして想定されるのは、Lose‐Lose(ルーズ-ルーズ:求職者も求人企業も負け)であっても、ビジネスが成立してもうかればよいという事業者です。それら、ビジネスさえ成立すればLoseがあっても構わないと考える事業者は、「社会の敵」ともいえる存在で、排除されるべきです。
せっかくサービスを提供しても、ビジネスという目的が加わるために、かかわる人全てにとってその機能が良い効果を発揮しているといえるのか分かりづらい面があるのが、民間が提供する需給調整機能です。その分、さまざまな批判を受けやすく、法制度による規制対象にもなりやすいのだと考えます。
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