暴走が止まらないヨーロッパ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
英政府は、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHEV)も含め、2035年に禁止すると発表した。欧州の主要国はすでに2040年前後を目処に、内燃機関の新車販売を禁止する方向を打ち出している。地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」ではなく、HVなども含めて普及させる方が重要ではないか。
不毛な欧州ルール
にもかかわらずCAFEのルールでは、年を追うごとにPHVのEVモードでの義務走行距離をどんどん増やし、今すぐCO2問題を緩和できるPHVというソリューションを、どんどん庶民の手に届かないものにしているのである。これは欧州の病的な完璧主義だと思う。一部には、プリウスPHVを閉め出すために「新型が出るたびにプリウスのスペックを少しだけ上回るEV走行距離に、ルール変更している」という声もあるが、まあ証拠のないことをどうこういっても仕方ない。陰謀論に与したくない筆者としては病気だと考えておく。
さて、ちゃんと検証しなくてはならないのは、ジョンソン首相はきちんとしたロードマップを持ってEVオンリーの社会を提唱しているのかどうかだ。2月6日に行われたトヨタの第3四半期決算で、同社のディディエ・ルロワ副社長は、ジョンソン首相のスピーチに対する記者の質問にこう答えた。
「われわれも皆さんと同じく今週はじめのタイミングで知りました。今週月曜日(3日)の時点で、英国政府と情報をシェアしました。そこで『われわれの発表は決定事項という意味ではない』と言われました。あれは英国政府の望み(wish)とのことで、自動車メーカーやすべてのステークホルダーとディスカッションを始め、これから6カ月をかけて、製品をどうしていくかを確定していく意向だと聞きました」
さて、このトヨタの説明をどう受け止めるかはみなさんにお任せしよう。「トヨタは自分の都合の良い説明をしている」と考える人もいるだろうし、「妥協は良くない。政府が自動車メーカーを説得して、より厳しい基準を作り地球環境を改善していくべきだ」という人もいるかもしれない。
ただ地球環境が本当に待ったなしだったら、今やれることに着手すべきだと筆者は考えるだけである。
関連記事
- 水素に未来はあるのか?
「内燃機関が完全に滅んで、100%全てのクルマがEVになる」という世界は、未来永劫来ないだろう。そのエネルギーミックスの中にまさに水素もあるわけだが、FCVにはいろいろと欠点がある。しかし脱化石燃料を目標として、ポスト内燃機関を考え、その候補のひとつがFCVであるとするならば、化石燃料の使用を減らすために「化石燃料由来の水素」に代替することには意味がない。だから水素の製造方法は変わらなくてはならない。また、700気圧という取り扱いが危険な貯蔵方法も変化が必要だ。 - 自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変
「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」と嘆いても仕方ない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。昨今の環境規制状況と、それが転換点にあることを解説する。各メーカーはそのための戦略を練ってきたが、ここにきて4つの番狂わせがあった。 - 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。 - EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。 - トヨタの電動化ゲームチェンジ
世間からはずっと「EV出遅れ」と言われてきたトヨタ。今回、電動化車両550万台達成を5年前倒して2025年とするとアナウンスした。そのために、従来のパナソニックに加え、中国のバッテリーメーカー、BYDおよびCATLとも提携した。さらに、用途限定の小規模EVを作り、サブスクリプションモデルを適用するというゲームチェンジをしてみせたの。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.