日本が圧倒的に「低賃金の暮らしにくい国」に堕ちた真相 訪れる“最悪の未来”とは:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
「海外は賃金も高いが物価高で暮らしにくい」という幻想。OECD賃金データからは逆に「圧倒的に暮らしにくい国」日本の実像が。諸外国のように成長できない日本を待つ最悪の未来とは?
日本ではデフレさえ脱却すれば全てが解決するといった風潮が根強いが、これは原因と結果を取り違えたものであり、正しい認識とはいえない。デフレというのはたいていの場合、不景気の結果として観察される現象なので、デフレになったので景気が悪くなったわけではない。
本当に怖いのはデフレではなく……
生活を豊かにしたければ、景気を良くする必要があり、景気がよければ自然と物価は上昇していく。従って、日本人が目指すべきなのはデフレの脱却ではなく、経済成長を実現することである。そうすれば必然的にデフレは解消されていく。
しかしながら、インフレは景気が良い時だけ発生するわけではない。景気が悪くても、物価だけが上昇することがあり、これを経済学ではスタグフレーション(不況下のインフレ)と呼んでいる。
1970年代のオイルショックが典型例だが、産油国の一方的な値上げによって石油価格が大幅に上昇したことから、米国では景気が悪いのに物価だけが上がるという最悪の状態となった。つまり「景気が悪い時に、特定の物価が上がる」というのは非常に良くないパターンなのだが、読者の皆さんの中にはピンと来た人がいるのではないだろうか。
現状の日本は、実は当時の米国に近い状況となりつつあるのだ。
「不況下のインフレ」という真の脅威
今はオイルショックこそ起こっていないが、日本が成長から取り残されたことによって、輸入品の価格が一方的に上がるという現象が発生している。ここ数年、価格を据え置いて内容量を減らすという、いわゆるステルス値上げが横行したが、このステルス値上げは、実はスタグフレーションの前兆かもしれない。
庶民にとって、不況下でのインフレほど怖いものはない。日本は何としても諸外国並みの経済成長を実現し、輸入品の価格上昇による悪影響を受けないようにする必要がある。わたしたちが本当に恐れなければならないのは、デフレではなく、不況下のインフレである。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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