23年ぶり社長交代のイオンの過去と未来 衰退したダイエー、勢いを増すAmazonから分析する:小売・流通アナリストの視点(1/6 ページ)
23年ぶりの社長交代を発表したイオン。バブル崩壊、スーパー業界の再編の中、ダイエーが衰退した一方で同社はなぜ成長できたのか。膨大なデータ基盤で“巨大なよろず屋”はデジタル時代を勝ち抜けるか。
23年ぶりに社長交代ということで、イオンのここ20年を振り返るニュースをいくつも見かけた。3月1日に代表権のある会長へ就任し、社長をしりぞく岡田元也氏は1997年に“2代目”社長としてジャスコ(現イオン)の社長に就任。当時、年商2兆円強だったグループを、今や8兆円を超える巨大流通グループにまで成長させた。最近では流通業界といえば、イオングループとセブン&アイグループがツートップというイメージだろう。しかし97年時点では、「ダイエー」というトップ企業がまだ、業界に君臨していたし、その他にも大型スーパー企業が数多く割拠していた。この時点では、当時ジャスコだったイオンは売上3位ながら、その規模はトップであるダイエーの半分程度の存在だった。
当時、横浜で暮らしていた筆者などにとっては、「スーパー」といえばダイエー、イトーヨーカドー、西友であり、もしくは、マイカル本牧という当時としては最新鋭のショッピングセンターや、サティという総合スーパーで、神奈川県内に進出していたマイカルの方がイオンよりもなじみがあったという記憶だ。そのころのイオンは、首都圏にはそんなに浸透していなかったし、もともと地方のロードサイドをホームグラウンドにしていたということからも、首都圏の住人には印象の薄い存在だったように思う。
しかし、00年前後の金融危機を経て、こうした業界地図は大きく変わった。97年当時の上位企業の多くが再編の波に飲み込まれていく中で、イオングループは再編の受け皿として、他社を傘下に収めることで、業界におけるリーディングカンパニーとしての地位を確立していく。かつてのトップ企業ダイエーさえも傘下とし、並行して地方の食品スーパー再編統合を進めたイオンは、スーパーマーケットの業界において、「圧倒的トップ企業」と言っていい存在となった。
00年前後、なぜ多くの小売大手が再編に追い込まれたのか。今やご存じない読者も多いと思うので、ざっくり振り返っておこう。バブル経済の時代、既に日本の実体経済が成長していない状況にもかかわらず、潤沢な資金が手元に集まっていた金融機関は、大規模な不動産開発案件への貸し出し競争で成長を維持しようとしていた。店舗や商業施設という、「不動産投資案件」を継続的に生み出す大手小売は、金融機関にとっては“ドル箱顧客”であり、投資効果について大した検証もしないまま、どんどん資金を提供していた。
こうした金融環境だと、当然ながら投資効果が大して見込めないような採算ぎりぎりの案件がたくさん実現してしまう。今考えてみれば、「信じられない」と思うかもしれないが、成長は永遠に続くというストーリーを、当時、大半の関係者がうたがっていなかった。それでも消費が拡大しているうちは問題にならなかったが、バブルが崩壊して、消費が一気に冷え込んでしまうと、「低採算案件(店舗投資や事業多角化)」は「不採算案件」へと転落し、返済が難しくなった。こうした不良債権が日本全国で、同時多発するという恐ろしい状況が現実に起こったのだ。
関連記事
- 「ヤフー・LINE」対「GAFA」は間違い? 本当のターゲットは金融業界だ!
経営統合を発表したヤフーとLINE。各報道ではGAFAと比較した“過小評価”が目立つが、筆者の見解は違うところにある。ヤフーの持つ決済機能や携帯キャリアであるソフトバンクとの相乗効果を加味すれば、今回の統合でまず影響が及ぶのは金融業界だと筆者は想定している。それはいったいなぜなのか――小売・流通アナリストの中井彰人氏が鋭く切り込む。 - 新型コロナウイルス感染拡大でもイオンはマスク着用「原則禁止」維持 ディズニーなど各社の対応は?
新型コロナウイルスの感染が拡大しており、各企業は柔軟な対策が求められている。東京ディズニーランド、ディズニーシーではキャラクターと来園者のふれあい方法を一部変更。エン・ジャパンでは、採用面談をWebに切り替えるなどしている。マスク禁止で話題になったイオンは…… - 赤字に苦しんできたダイエーに“復活”の兆し 流通帝国の崩壊から黒字化までの道のりをたどる
再建途上のダイエーが黒字化しそうになっている。一大流通帝国を築いた道のりを振り返る。なぜ、今になって復活の光が見えてきたのか。 - 楽天、送料無料化で「三方良し」掲げるも実態は「独り勝ち」? 強気の三木谷社長 欠ける説得力
楽天市場の送料一部無料化問題が波紋を広げている。3月18日に開始することを予定しているが、出店者の反発はおさまらない。強気の三木谷社長だが、説得力には欠けるのが現状だ。Amazon追従に何よりも必要な「出店者の理解」は得られるのか。 - 課長の平均年収は932万円、部長は? 外資との「格差」も明らかに
日本で活動する企業の報酬状況が発表。日系企業と外資系企業合わせて679社が参加した。調査結果では課長職や部長職の平均年収も明らかになった。日系企業と外資系企業の報酬格差も合わせて発表し、特に役職者以上で顕著な開きがあった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.