23年ぶり社長交代のイオンの過去と未来 衰退したダイエー、勢いを増すAmazonから分析する:小売・流通アナリストの視点(2/6 ページ)
23年ぶりの社長交代を発表したイオン。バブル崩壊、スーパー業界の再編の中、ダイエーが衰退した一方で同社はなぜ成長できたのか。膨大なデータ基盤で“巨大なよろず屋”はデジタル時代を勝ち抜けるか。
ダイエーとイオン、どこで差が付いたか
このとき、大半の大手小売企業では不採算店舗が大量に発生し、予定通りの返済が難しくなったのだが、頼みの金融機関は大量の不良債権が同時多発したことで、自身の存続さえ危うい状態に陥っており、大手小売を救済する余力は残っていなかった。従って、大手小売は不採算事業、不採算店舗の割合が高いところから、退場させられることになるのだが、このとき、小売最大手ダイエーとイオンの命運が分かれる。一見、同じような「拡大主義」に見える両者だが実は大きな違いがあった。それは、店舗や事業の「スクラップ&ビルド(新たな投資を行いつつ、陳腐化した資産を処分、もしくは再投資する)」という小売業の基本原則に関わる対応だった。
多店舗を展開するチェーンストアにおいては、毎年、新しい店舗を出店することによって成長していくというビジネスモデルであるが、一般的に店舗の稼ぐ力は経年劣化していくため、店舗年齢の高い店は陳腐化の進行に応じて、改装するか、閉鎖して別の場所に移転する必要があるというのが基本理論とされている。しかし、高度成長期にそのビジネスモデルを作り上げたダイエーにとって、店舗が経年劣化して不採算店になるという実体験があまりなかったのであろう、店舗をスクラップすることの重要性については看過した。その結果、ダイエーには、本来であればスクラップしておくべきだった高度成長期に作った店舗群が、長く温存されていた。そして、投資可能な資金の大半を、新規投資(店舗や事業)にまわし、陳腐化しつつある店舗年齢の高い店をスクラップすることを怠ったのである。
ダイエーは、言わずと知れたスーパーマーケット業界における最初の“覇者”であり、初めてほぼ全国展開を果たしたスーパーでもある。ダイエーは、地方の中核都市クラス以上の多くの都市へ進出し、その当時、街の1等地である駅前や中心市街地に店舗を配置した。そして、00年前後になっても、中心市街地の店舗群が大量に残されていた。
ここまで言うと、気付く方もいるかもしれないが、「00年前後には地方都市の中心市街地って、もうすっかり寂れてなかったっけ?」というのがダイエーが衰退していった背景だ。当時、地方では既にモータリゼーションが進展し、駅前など地方の中心市街地は急速な衰退が進行。さらにバブル後の消費低迷によって、こうした立地にある店舗のほとんどが一斉に不採算店となった(その証拠に、ダイエーのこうしたタイプの店は、今ではほとんど閉店済みで、大半が存続していない)。こうした不採算店群の存在によって、スーパー逆境の時期にもかかわらず、巨額の減損損失によって資本が毀損(きそん)しているという評価を受けたダイエーは、再建のチャンスを失うことになった。
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