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米国の新型コロナ“急拡大”で迫りくる「中国復活」の脅威世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大している。日本の経済活動において影響力が大きい米国でも、多くの州で非常事態宣言が出された。米国は今、どのような状況なのか。このまま感染拡大が続けば、先に復活した中国の力が増すことにもつながりかねない。

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今後の脅威は「中国の復活」

 では今後、米国でさらに感染者が増えるとどうなるのか。日本は、感染者数が世界で1位と4位である中国と韓国(3月11日現在)から入国制限をしたように、米国の感染者数が世界的に多くなったら、入国制限などの措置を取らざるを得なくなる可能性がある。そうなれば、日米の経済関係はスローダウンし、経済的な大打撃を受けかねない。日本に米国人が来られなくなり、トランプ大統領が示唆しているように、米国側も日本人の訪米を制限すれば、両国のビジネスに痛手となることは間違いない。

 また世界経済を引っ張る国がそんな状態になれば、世界経済そのものが停滞するだろう。

 さらに危惧されるケースは、米国で感染拡大している間に、すでに抑制傾向にある中国が他よりも先に復活した場合だ。経済的に中国の存在や発言力が高まる可能性もある。中国は常に、その瞬間を虎視淡々と狙っており、その機会を逃すまいとするだろう。現在、中国では労働者たちもゆっくりと「通常運転」に戻りつつある。

 すでに中国は、今回のケースを受けて、中国版のWHO(世界保健機関)を作るための調査を開始していると米国で報じられているし、イランと足並みをそろえて、新型コロナウイルスの発生源は実は米国だったという主張をしていると聞こえてきている。米国のことを快く思っていない人たちなら、こうした情報を簡単にうのみにしてしまうだろう。

 性善説は通用しない。中国は敵国の弱みにはつけ込んでくる。過去を見ても、例えば、2011年の東日本大震災と福島原発事故が起きてからすぐ後に、日本の警察関係者らに「本日の放射線量」というマルウェア(不正プログラム)を埋め込んだワード文書を大量にメールで送りつけている。弱みにつけ込んで、警察関係者らをハッキングしようとした。01年の米同時多発テロの際にも、中国は同じように米金融機関などにサイバー攻撃「Nimda」を仕掛けている。

 おそらく新型コロナウイルスの混乱は、まだまだ続くだろう。それに伴って、国際的なビジネスが滞り、経済にも多大な影響を与えることになる。とにかく、今は米国や日本などで感染者数・死者数を増やさないよう全力を挙げて取り組まなければならない。これは単なる疫病というだけではない。安全保障の問題につながっていくことを認識しておく必要もあるだろう。

 もう米国で「第2イニング」は始まりつつある。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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