コロナ問題で気になる「鉄道の換気」の秘密 今こそ観光列車に乗りたいワケ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
鉄道事業者の新型コロナウイルス対策は「通勤電車での感染予防」と「減便」の2つ。通勤電車の換気のための「窓開け」にも歴史がある。一方、通勤電車とは違って、特急列車を運休するのは乗客の減少に対応するためで、集団感染の危険が高いからではない。
マスクと手洗いで自衛できるなら……旅に出よう
冒頭で書いたように、新幹線など特急列車、観光列車は「集団感染の発生条件」に当てはまらない。「多くの人々が密集」しないし「手を伸ばして届くほどの距離で会話、発声」は、隣り合った気心の知れた人同士で気を付ければよろしい。
特急や新幹線の車両は通勤電車のように窓が開かない。「換気の悪い密閉空間」ではないか、と心配する人も多いだろう。実は、特急形車両は窓が開かないことを想定して、強力な換気性能を備えている。例えば、東海道新幹線の車両は約6〜8分間で車内の空気と同じ量の換気を実施するという。窓の上に半円状のスリットがあり、そこに手をかざすと常に風が出ている。
特急形車両の強力な換気性能は、密閉空間の酸素不足というより臭い対策という意味合いが強かったと思われる。特急形車両では多くの人々が駅弁や菓子を食べる。団体客は酒を飲む。その臭気を残さないために強力な換気性能が求められた。肉まん、たこ焼きの是非がネタになるけれども、それは食べる人の周囲で、限定的な時間に限られる。しばらくすると臭いは消える。少なくとも、折り返し乗車した車内が臭っていたという事例はない。強力な換気性能の証である。
集団感染の危険がない、となると、なぜ新幹線や特急は運休するのか。こちらはお客さんがいないという経済的な事情だ。旅行の目的地が閉鎖されているからお客さんが減る。それは分かる。しかし、観光列車の運休は納得できない。観光列車は列車そのものが旅の目的ではないか。走れば集客できて、定員が少ないから集団感染の恐れも小さい。乗客が自衛すれば運行してもいいと思う。
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