「愛」と「恋」はなぜ書きにくいのか? 知られざる毛筆フォントの世界:水曜インタビュー劇場(文字公演)(3/5 ページ)
街中を歩いていると、毛筆フォントを目にすることが多い。店の看板や商品のラベルだけでなく、家に帰ってテレビをつけるとテロップでも流れてくる。実際に書かれたような毛筆フォントは、どのようにしてつくられているのか。フォント事業を手掛けている「昭和書体」の社長に話を聞いた。
毎回、ブレてしまう
坂口: いえ、そういうわけではありません。フォントにしたことがなかったので、フォント化する際のルールを知らなかったんです。フォントはひとますの四角の中に、きちんと入るようにしなければいけません。しかし、そんなことも知らなかったので、文字によって大きかったり、小さかったりしていました。
土肥: はっ、確かに! PCを使って書かれた文字を見てみると、サイズが統一されている。
坂口: 書道の場合、勢いよく「ばーっ!」と書きますよね。伸ばすところは伸ばし、ハネるところはハネる。そうした文字を四角の中に入れようとすると、文字がものすごく小さくなるんです。つぶれてしまって何が書かれているのかよく分からない文字もでてくる。ということもあって、書道の文字をフォント化するのは、ものすごく難しいんですよね。
土肥: ただ、巻物に書かれた文字は書道っぽい書き方だったわけですよね。
坂口: はい。コンセプトがなかったので、好きなように書いていました。このままでは使えないということで、統一感を出して「あいうえお」「かきくけこ」などと書いていきました。
土肥: そこなんですよ。書体を完成させるために、7000字ほど書くわけですよね。最初は「このコンセプトで書く」と決めていたのに、何文字か書いているうちに「あれ? ちょっと違ってきたかな。どうしよう、どうしよう」といったこともあるのですか?
坂口: 実は、毎回ブレるんですよね。100字、200字と書いているうちに、文字の形が変わってくるんです。そうしたとき、どうするのか。最初からやり直しです。ただ、やり直す作業は必要だと思っているんですよね。文字を書く前に「今回のフォントはこれでいく」とコンセプトを決めて、書き始めるわけですが、どうしてもブレてくる。頭の中で「100%こうだ!」と決めていても、実際に手を動かしていくうちに変わってくるんですよね。
土肥: 連載漫画の絵に近いのかも。長く連載を続けている漫画の絵を見ると、過去と現在で随分違うことがありますよね。最新刊の主人公は細いのに、1巻は太っているとか。
坂口: 近いかもしれません。100字書くと、ブレてくるので、それを捨てる。また、100字書くと、ブレてくるので、それも捨てる。いわば“できそこないの文字”をどんどん消化していくことによって、よくなっていく。そこからスタートして、文字を完成させるといった感じなんですよね。
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