「愛」と「恋」はなぜ書きにくいのか? 知られざる毛筆フォントの世界:水曜インタビュー劇場(文字公演)(4/5 ページ)
街中を歩いていると、毛筆フォントを目にすることが多い。店の看板や商品のラベルだけでなく、家に帰ってテレビをつけるとテロップでも流れてくる。実際に書かれたような毛筆フォントは、どのようにしてつくられているのか。フォント事業を手掛けている「昭和書体」の社長に話を聞いた。
「愛」と「恋」を書くのは難しい
土肥: 文字を書く順番は決まっているのですか?
坂口: アジアの「亜」から始まって、漢字をずっと書き続けます。そして、英語、カタカナ、最後にひらがな。なぜ、ひらがなが最後なのかというと難しいから。ひらがなは画数も少ないので「簡単でしょ」と思われたかもしれませんが、バランスをとるのがものすごく難しい。というわけで、漢字の「亜」から始まって、ひらがなの「ん」で終わる。
土肥: 食事で例えると、苦手なモノを最後に食べるといった感じですかね。話は変わりますが、書いているときはどんな雰囲気なのでしょうか? ピリピリしているとか、逆にリラックスしているとか。
坂口: 書体によって「人格」が変わってしまうんです。豪快な文字を書いているときには、ずっとその文字を書き続けていることもあってか、豪快な人格になっていく。そうしたときには、あまり近づくことができません。ピリピリしているので、怖いんですよね。
一方、細くて繊細な文字を書いているときには、繊細な動きをする。本人も「女性のような気持ちで書く」と言っていまして、そうしたときはしぐさもいつもと違うんですよね。やわらかい動きをしている。
土肥: これまで64書体を完成させてきているんですよね。ということは……。
坂口: 64の性格で書いてきました。
土肥: 書体を完成させるのに7000字ほど書くわけですが、苦手な文字はあるのでしょうか? 「ん〜、これはいつ書いてもうまく書けん!」といった感じで。
坂口: 実は、あるんですよ。それは「愛」と「恋」。
土肥: むむ、それは気になる、気になる。理由として、過去の甘酸っぱい記憶が関係していそう(ワクワク)。
坂口: なぜ「愛」と「恋」の文字を書くのは、難しいのか。本人に理由を聞いたところ「書いていて、照れてしまう」と言っていました。文字を書くときに、意味をイメージするからかもしれません。
土肥: 意識しすぎて、手先がにぶるのかもしれませんね。考えてみると、日常生活を送っていて「愛」とか「恋」という文字をきちんと書くことってあまりないですよね。ましてや、毛筆を使って書くとなると、照れくさい気持ちがより膨らむのかも。
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