未来の金融、グランドデザインが必要 Fintech協会理事インタビュー:フィンテックの今(1/4 ページ)
本格的にフィンテックが普及し、活用されるためには法律や制度の整備が欠かせない。各国が独自に対応を進める中、日本はフィンテックをどう活用していくべきなのか。金融をどう変えていくかというグランドデザインを明確に打ち出すことが必要だ。
今年、日本で始まる「STO(セキュリティー・トークン・オファリング)」など、話題に事欠かないフィンテック。本格的にフィンテックが普及し、活用されるためには法律や制度の整備が欠かせない。各国が独自に対応を進める中、日本はフィンテックをどう活用していくべきなのか。Fintech協会の代表理事副会長である鬼頭武嗣氏と、理事で渥美坂井法律事務所弁護士の落合孝文氏に聞いた。(聞き手はフリーライターの中尚子)
――海外と比べて、現在の日本のフィンテックにはどのような特徴があるのでしょうか。
落合孝文氏(以下落合) 日本のフィンテック企業は、銀行と連携してサービスを提供している例が多いことは特徴です。海外でよく見られるような、フィンテック企業が銀行そのものになるようなケースは日本ではあまりありません。
日本の場合は、比較的早期にネット銀行が増えており、IT企業が銀行業界に進出したなどの例はありますが、情報技術やスマートフォンに即したようなサービスを主にする銀行の設立までは必ずしも進んでいません。LINEが銀行業界に参入するという話も、メガバンクと連携していますので、非金融事業者が金融機関をディスラプトするという単純な構図ではないように思われます。
英国や香港では、デジタルバンキングのライセンスを緩和するなどの対応が進んでいますが、「フィンテック vs 銀行」になっていないという背景からか、日本ではフィンテック企業側からもそういった要望はあまり出てきていません。
欧米の金融機関は、2008年のリーマンショックの後に消費者からの信用を大きく落としており、その結果として、フィンテックが対抗する形で伸びてくる余地が大きかったともいえます。一方で、日本の金融機関はリーマンショックで、そこまで信頼を失っていないので、金融機関が強く、フィンテック企業が銀行に対抗するという構図にはなりにくいのでしょう。このような点も含め、日本では、フィンテック企業が単独で事業を展開するのはなかなか難しいという面もあると思います。
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