原油急落……「1リットル15円」でもガソリンスタンドが大幅値下げしないワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
原油相場が暴落している。わずか3カ月の間に3分の1となった原油価格。しかし街のガソリン価格はそれほど値下がりしていない印象だ。資源エネルギー庁によれば、4月8日時点のレギュラーガソリンの小売価格相場は124.9円だった。
値下がりしても原価は下がらない?
そんな政府とは対照的に、国内の石油会社は逆に業績の下方修正を余儀無くされている状況だ。ガソリンスタンドENEOSを経営するJXTGホールディングスは、先月に20年3月期における最終損益の見通しを、2500億円の黒字から2400億円の赤字まで下方修正した。コスモエネルギーHDは、19年度の最終益見通しを600億円から25億円に下方修正した。
【訂正:2020/05/21 初出でJXTGホールディングスの社名を誤っておりました。お詫びし、訂正いたします。】
ここからも、原油とガソリンの価格乖離が拡大したとしても、石油会社が大幅に利益を出すという構図でないことが分かるだろう。このような石油会社の特徴を語る上では、原油価格がもたらす2つの「在庫影響」を見過ごしてはならない。
ひとつは、石油会社が保有している石油の時価が、期末時点で取得価格(簿価)を下回っていた場合の、取得価格切り下げによる在庫評価額の影響だ。この場合、期末時点の時価まで取得価格を切り下げることになる結果、損失が発生する。株式で例えると、12月末に保有銘柄を決済することなく、評価損益を確定損益として計上するようなものである。
もう一つが、会計方式による在庫影響だ。石油会社は、一般に総平均法という会計方式を採用している。この方式では、価格の高い時期に備蓄した原油の在庫と、価格が安い時期に仕入れた原油の在庫をまとめて平均化することになる。そのため相場下落時には、時価よりも平均取得額の方が高くなる。そのため、小売価格に占める売上原価率が高まってしまうのだ。
“ガソリン減税”は景気刺激策として有効?
世間のイメージとは裏腹に、石油会社は現在苦境を強いられている可能性が高い。そこで、筆者は“ガソリン減税”を実施することが、景気刺激策の観点で有効ではないかと考える。
そもそも、日本では、国家の安全保障の観点から、石油の備蓄量を一定以上に保たなければならないことが「石油の備蓄の確保等に関する法律」にて規定されている。それならば、石油の備蓄に寄与している石油会社にかかるガソリン税を見直すことも、選択の余地があるのではないだろうか。石油会社に対するガソリン税の見直しは、当然消費者にも還元されていくだろう。
また、燃料のコストが減少すれば、物流コストの低下が期待できることも挙げられる。巣ごもり消費の文脈で需要が伸びているECサイトの送料負担の軽減を間接的に支援する効果が期待できる。さらに、燃料コスト負担が大きい航空業界についても、一定程度のダメージ抑制効果が期待できるのではないだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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